【特集・共同取材】交通費助成全国調査

先月26日、就活生の交通費負担について問題提起した(詳細は5月26日付のあらたにす【特集】破産寸前 就活生は言いたい」)。その後も就活は続き、東京から神戸、長野、盛岡、京都と全国各地へと足を運んだ。交通費はかさみ、貯金は底をついた。あちこちを移動するうちに疑問が湧いた。就活生に対する交通費助成制度は全国にどれほど普及しているのだろうか。そこで、あらたにす編集部の同僚である杉山麻子さんと共に実態を調べた。取材から浮かび上がったのはー

〈制度整備は東高西低の傾向〉

北海道から沖縄までの各道府県に交通費助成制度の有無を問い合わせた。インターンシップや企業の選考で県内を訪れる学生に対して道府県主体で交通費助成制度を設けていると回答したのは17県だった。地域別に見ると東北が4県、関東甲信越が4県、東海北陸が3県、中国が3県、四国が1県、九州沖縄が2県であった。近畿地方では学生向けの交通費助成制度を設けている府県は無かった。なお、都市圏別で転入者が超過している東京圏(東京、千葉、埼玉、神奈川)は調査対象から外した。このほか、市町村が独自で交通費助成を設けているのは札幌市や岩手県北上市、福島県郡山市、津市、奄美市など、全国の広い範囲で見られた。

▲赤く塗られている場所は、県が主体で就活生向けの交通費助成制度を設けている。赤く塗られていないが、市町村レベルで助成制度を設けているところもある。

〈複雑な手続きと支援体系〉

学生側が利用する上では不便な面もある。各県の支援内容がまちまちだからだ。例えば青森県、新潟県、札幌市などでは県内での企業説明会、採用試験、インターンシップのいずれかに参加する際に交通費を助成している。一方、石川県や宮崎県などでは特定の就活イベントやインターンに参加する場合に限られる。地域によって助成対象がバラバラであるのが現状だ。また、交通費助成を申請するにあたって、指定の書類を提出するだけで済む場合もあれば、県独自の就活サイトに登録を求められる事例もある。津市の担当者は「就活で忙しい時に、領収書などの提出が複雑で負担になるという意見が寄せられたので、平成30年度から居住地域に応じて一律の金額を助成することにした」という。就活生側の負担をいかに減らすかが一つの課題になっているとみられる。

〈担当者「どこにプロモーションすれば」〉

支援する自治体側は、学生へどのようにアプローチするのか頭を抱えている実態もある。「高校卒業後、5割弱は県外へ行ってしまう」(秋田県)、「関西ならまだしも関東まで出ていくとほとんどは戻ってこない」(高知県)、「マイナビなど大手就活サイトに載っていない県内の中小企業は学生にとって『存在しない企業』になっている」(佐賀県)。「どこにプロモーションすれば地方に関心のある学生に声を届けられるのか分からない」(山形県南陽市)。各自治体の担当者はパンフレットの作成や東京・大阪の出先に就職支援窓口を設けるなど、対策を練るが「統計がないのでどれほど効果があるのか分からない」(北海道)のが現状だという。支援制度の効果は未知数で、自治体は確実な実感を得ていない。

厚生労働省の委託事業「Lo活」はインターネット上で各都道府県の就活セミナーや支援策を紹介しているが、このサイトを利用してみると、リンクの期限切れで情報を閲覧できない場合もあった。本来、一元的に各地方の就活支援制度を検索できるが、このままでは、利用者まで情報が届かない。

▲「LO活」に貼られたリンクを辿っても、リンク切れになっているケースが複数あった。

〈ターゲットを東京圏以外にも〉

20日付の日本経済新聞朝刊には気になる記事があった。ホクギン経済研究所(新潟県長岡市)とだいし経営コンサルティング(新潟市)が2019年の新潟県内の新入社員に対してアンケートを取ったところ、就活で苦労した点について「移動にお金がかかった」と答えた割合が20.2%で最多だったという。平成28年度から交通費助成制度を整備している新潟県でも、こうした実態がある。就活生が支援策を認知していない、又は助成が不十分である可能性がある。

今回の取材では、新潟県をはじめ、札幌、青森、宮城などは、交通費助成の上限額を「東京〜地元の片道分まで」と設定している自治体が多いことが分かった。UIJターンは特に東京圏の学生をターゲットにしている場合が多い。仮に関西や九州方面からUIJ希望者が来る場合、支援が十分でなくなる可能性がある。居住地別に助成金額を設定するなどの対策が求められる。

〈大学も自治体も助成には前向き〉

独自で交通費支援を実施している大学も複数ある。例えば福岡工業大学(福岡市)では、県外で選考を受ける学生に6000〜36000円の交通費を補助している。同大就職課によると「補助金額は福岡から全都道府県への、最も効率的な交通費を算出して設定している」。昨年度は194人の学生がのべ247回にわたり利用している。担当者は「学生が東京、名古屋、大阪の学生と同程度の進路を決定できるように支援するには交通費の支援は必要と考えている。今後も継続していく予定だ」と交通費助成の意義を強調した。

自治体も交通費支援に前向きな姿勢を見せている。福井県は27日に一般会計の6月補正予算案を発表し、その中で県外学生がUIJターンの就職活動をする際の交通費支援に1180万円を盛り込んだ。今後の支援拡充が期待される。

〈十分な支援 早期整備を〉

UIJターンの統計不足、厚労省の委託事業の不具合、アプローチを模索する自治体…。交通費助成をめぐる課題は多い。福岡工大のように大学が支援策を設けている例は一部にとどまっている。

今もなお、交通費捻出に悩む就活生がいる。筆者もまた、その一人だ。地方へのUIJターンが促進されると共に、十分な支援環境が早期に整備されることを願う。

参考記事:
28日付朝日新聞デジタル「県が6月補正予算案 309億円肉付け」
20日付日本経済新聞朝刊地域経済面(新潟版)「新潟県内の新入社員、就活の苦労点「移動費」が最多」
1月31日付朝日新聞デジタル「東京圏、昨年の転入超過14万人 20〜24歳が5割超」

参考文献:
厚生労働省委託事業「LO活」https://local-syukatsu.mhlw.go.jp/

スペシャルサンクス:

杉山麻子さん

特集記事 編集部ブログ