インクルーシブ教育 全ての子どもが共に学ぶ「共生社会」に向けて

前々回のあらたにすで教育虐待についてお伝えしたように、子どもの権利や教育をめぐる問題は多くあります。本稿では、障害を持つ子どもとインクルーシブ教育について考えていきます。

 

■インクルーシブ教育とは何か

すべての子どもたちが可能な限り共に学ぶ「共生社会」に向けた教育システムのことです。国籍や人種、宗教、性差、経済状況、障害の有無にかかわりません。日本でこの言葉を使う場合は、障害に着目することが多いです。

日本も批准する障害者の権利に関する条約(略称:障害者権利条約)第24条には、障害のある子どもの教育について記されています。

特に2項には、インクルーシブ教育に必要な措置が書かれています。以下は同項のキーワードです。

(a)       一般的な教育から排除されない

(b)      自己の生活する地域において

(c)       合理的配慮が提供される

(d)      一般的な教育制度の下で

通常の学級に通いたい子どもが特別支援学級や特別支援学校に通わざるを得ない環境を正す必要があるのです。

 

■現状

今なお、統一的なインクルーシブ教育の環境が整っているとは言えません。通常学級に通いたい子どもが、特別支援学級などに通わざるを得ない状況が続いています。しかし少しずつですが、整備は進んでいます。東京都教育委員会は13日、都立高校と都立特別支援学校の一体的な運営を検討する方針を明らかにしました。また、大阪府豊中市立南桜塚小学校のように、独自に取り組んでいる学校もあります。

障害者権利条約に加わっている日本は、早急にインクルーシブ教育を進める必要がありますが、そう簡単ではありません。学びの場の整備と「公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律」に定める教職員数を超えた人材の確保という二つの取り組みが求められます。具体的には、スロープや手すりの設置、スクールソーシャルワーカーや言語聴覚士等専門家の活用、教職員の研修受講などです。これらを実現するには、多額の費用が必要になるでしょう。さらに、多忙を極める教員の負担は、一層増加してしまいます。費用に人材確保、課題は山積みです。

 

■「共生社会」に向けて

筆者は中学時代のことを思い出しました。同じ小学校に通っていた障害のある友人は、中学進学と同時に特別支援学校に入学しました。入学後も、支援学校のバスを待つ姿を見かけたり、偶然会った時には世間話をしたりしました。けれど、小学生のときほど頻繁ではなく、次第に疎遠になりました。中学生ながら、障害とそれを取り巻く環境の壁を感じたことを覚えています。当時、インクルーシブ教育が推進されていたなら、交友を継続できていたのかも知れません。

インクルーシブ教育から発展する全員参加型の「共生社会」は、孤立する人の多い日本にこそ求められている社会像なのではないでしょうか。課題は多いけれど、インクルーシブ教育システムが発展し、誰もが共に学ぶことのできる環境を整備すべきです。

 

参考記事:

・13日付 朝日新聞デジタル 「都立高校と特別支援学校、一体化へ 都教委『インクルーシブ教育を』」 

・12日付 朝日新聞朝刊(北海道)24面 「『インクルーシブ教育へ取り組む』不適切対応で教育長」

・8月21日付 NHK インクルーシブ教育とは何か?(1) 障害のある子どもと共に学ぶ取り組み – 記事 | NHK ハートネット

 

参考資料:

・外務省 障害者の権利に関する条約(略称:障害者権利条約)

・外務省 障害者権利条約パンフレット

・文部科学省 共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)

・e-Gov法令検索 公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律