各地で加速するオーバーツーリズム 問われる観光客の姿勢

オーバーツーリズムが深刻な問題になっている今日この頃、人気の観光地では対策が始まっています。4月21日のあらたにす「沈みゆく都、ベネチアの危機」でも紹介されましたが、イタリア北部の「水の都」ベネチアでは、今月25日から試験的に入場料5ユーロ(約850円)が導入されました。支払わなかった場合、最大300ユーロ(約5万円)の罰金が科されるというのです。

日本では円安の追い風を受け、3月の訪日客が初の300万人突破しました。これは、新型コロナウイルス流行前の2019年同月を11.6%上回る水準です。その勢いは留まる様子を見せることなく、ゴールデンウィークに入り更に加速しています。そんな中、京都の祇園でも対策が打ち出されました。私道の通り抜けが相次いだため、5月中旬から禁止する看板が立てられます。日本語に英語、中国語を併記し、許可なく侵入した場合は罰金1万円が科されます。

問題は、京都の郊外でも起きています。先日、「伊根の舟屋」で有名な伊根町を訪れました。京都府の北部に位置し、「日本で海に最も近い暮らし」とも言われる地域。国の重要伝統的建造物群保存地区にも選定されています。海の上に浮かんで見える舟屋群を一目見ようと、京都府で2番目に少ない人口約2000人の町に、年間20万人を超す観光客が押し掛けています。

「伊根の舟屋は観光地ではありません」

伊根町観光協会のホームページにある注意書きです。実は伊根町でも、観光客が私有地に勝手に立ち入り写真を撮るケースや、狭い道路に何十台もの車や大型バスが並ぶなどの事態に悩まされているというのです。実際私が訪れたときにも、伊根町の入り口にある駐車場付近に警備員が配置され、続々とやって来る車を誘導していました。

対向車とすれ違う様子(2024年3月31日 筆者撮影)

(2024年3月31日 筆者撮影)

特に配慮するよう呼び掛けているのがプライバシーです。舟屋や母屋は個人の所有物であり、今も住民が暮らしています。そのため、舟屋はもちろん、その敷地内も所有者の許可なく無断に侵入することはできません。勝手に入り込むケースが過去にあったのか、私有地の入り口に看板や貼り紙が貼られている様子も見受けられました。

伊根町では今後、観光客が集中する土日と祝日に自家用車から公共交通機関に乗り換える「パークアンドライド」を導入する予定だそうです。自家用車を伊根町役場に駐車してもらい、手配したマイクロバスで「舟屋」周辺に移動してもらいます。また、路線バスの混雑対策として、土日祝は宮津市中心部の桟橋から天橋立を経由して、伊根町まで向かう遊覧船が新たに就航します。

伊根町観光協会は、住民と観光客の双方が快適に過ごせるよう、今まで実際にあった事例を挙げ、マナーを守るよう呼びかけています。日常から離れて新たな場所を訪れたいとき、旅に出ることでリフレッシュすることができます。その裏には地元の人の心遣いや観光客のマナーの積み重ねがあります。

自治体や観光協会などがオーバーツーリズムへの対策を行うことも重要ですが、私たちそれぞれが自分の行動に責任を持つこと、それが観光地の保護につながるという意識を忘れないことが、今後の日本の観光業をより良い方向に発展させていくために求められているのではないでしょうか。

参考記事

4月26日付 朝日新聞 朝刊(東京13版)8面「観光公害深刻、『水の都』に入場料 ベネチア、日帰り客から5ユーロ徴収 『危機遺産』回避」

日本経済新聞「『ここは観光地じゃない』 私有地立ち入り嘆く住民 惑う 観光大国ニッポン(3)」2024年3月6日

日本経済新聞「円安で『コト消費』沸騰 3月の訪日客、初の300万人突破」2024年4月17日

NHK 京都NEWS WEB「伊根で新たなオーバーツーリズム対策実施へ」

参考資料

伊根町観光協会, 「伊根の舟屋とは」