日本の「創薬」 緊急事態下での弱点強化を

日本で使われる医薬品が海外メーカーに依存している現状が19日付の読売新聞で指摘されていました。記事では新型コロナウイルスの感染「第4波」の際に、人工呼吸器を必要とする重症患者に使う鎮静剤「プロポフォール」が不足したことを例に挙げています。製造元のドイツからの輸入が追い付かなくなったことが原因とされています。

さらに、日本は原薬や成分の原料も海外に大きく依存しています。ジェネリック医薬品の原薬では韓国と中国が2割を占め、さらに、国内で作られる医療用医薬品を見ると、主成分の半数以上が輸入品だったものが金額にして約7割を占めています。財務省の貿易統計によれば、2020年の医薬品における貿易収支は約2兆3135億円の赤字です。

医薬品の貿易赤字の推移(日本経済新聞12月12日より引用)

さて、ここで考えたいのは、新型コロナウイルスのような危機が発生した際に、医薬品を海外に頼るのには、構造的な理由があるのではないか、ということです。日本の製薬メーカーの開発力が格段に遅れている、技術が足りないというわけではないでしょう。実際に、医療用医薬品の世界売り上げの上位100品目を国別で比較すると、アメリカ、スイスに続き日本は第3位です(財務省)。

しかし、コロナ問題でワクチン製造に遅れを取り、海外で承認を受けたものを後追いで認める特例で入ってきたもの以外、使っていません。ではなぜ、日本の創薬が肝心の感染症のときに力を発揮できないのか。

リスクをはらむ開発への投資額の少なさでしょう。新型コロナウイルスのように未知の病原体で引き起こされた病気の場合、感染が拡大した後に開発を急いでも間に合いません。そのため、前もって、未知なるウイルスによるパンデミックを想定し、いつ発生してもスムーズに開発を進められる仕組みを整える必要があるといえます。しかし、その時点では大規模な市場があるわけではなく、研究や開発を継続するための巨額の資金が必要となります。

12月12日の日本経済新聞では、「欧米では大学の先端的な研究成果を基にスタートアップが起業。初期の臨床試験(治験)を経て大手製薬企業が買収し、実用化につなげる例が多い」と述べられています。投資家が資金を提供し、開発や実用化を促す循環は日本ではなかなか実現しません。先が見えない創薬事業への投資が乏しかったため、力を発揮できない事情があるようです。

ここまで日本の弱点を述べてきましたが、ここにきて政府が大きな動きを見せました。

17日には、医薬品の承認手続きを迅速化する狙いで、ワクチンや治療薬を緊急承認できる制度を創設する医薬品医療機器法(旧薬事法)の改正案が自民党厚生労働部会にて了承されました。これまでの特例承認よりも手続きが簡略化されるため、緊急時の創薬に期待が持てます。さらに、経済産業省は昨年12月に創薬スタートアップの育成に乗り出しました。初期の臨床試験段階でも数十億円規模で補助が出ます。そもそも医薬品の開発には10年以上、数百億円以上が必要と言われています。ほんの一部の支援でしかありませんが、開発初期の後押しで国産薬が開発される可能性はぐんと広がり、研究の蓄積もできるでしょう。

いま日本の創薬に必要なのは目先の成果ではなく、次なる感染症の危機に備えた開発力の蓄積とそこへの思い切った投資でしょう。

 

参考記事:

18日付 読売新聞朝刊(福岡13版)2面「有効性推定でワクチン・医薬品緊急承認OK」

19日付 読売新聞朝刊(福岡13版)4面「医薬品 深い海外依存」

2021年4月18日付 読売新聞オンライン 「「医療先進国」のはずの日本、なぜ遅れる国産ワクチン開発…技術育てず「蓄積」なし」

2021年12月12日付 日本経済新聞 「医薬敗戦、バイオ出遅れ」

2021年12月24日付 日本経済新聞 「創薬力強化へ新興育成 初期治験に補助金」

 

参考資料:

厚生労働省 「医薬品産業ビジョン2021資料編」

2021年2月12日付 東洋経済オンライン 「「ワクチン開発後れた日本」がこれからできる事」

経済産業省 生物化学産業課(平成29年11月15日)「バイオベンチャーの現状と課題」