「胎児は人ではない」。こんな言葉を聞いたら、多くの人はおかしな話だと思うのではないでしょうか。たとえお腹のなかにいるとしても、家族にとってかけがえのない大切な命です。しかしながら、刑法上ではお腹のなかの赤ちゃんは人として認められていません。つまり、被害に遭っても、加害者に刑事上の責任を問うことができないのです。この現実に苦しんでいる人々がいます。
2025年5月、愛知県一宮市で、妊娠中の女性が車にはねられ亡くなる悲惨な事故がありました。お腹のなかの赤ちゃんは緊急手術により一命を取り留めたものの、事故の影響により脳に重い障害を負ってしまいました。生まれてから1歳になりましたが一度も目を覚ますことはなく、常に呼吸器につながれています。回復が困難な状況が続き、24時間介護が必要だと聞きます。
26年6月18日、名古屋地裁一宮支部はこの事件の被告に対し、禁錮2年6月の実刑判決を言い渡しました。この裁判で、赤ちゃんに対する過失傷害罪の適用はされませんでした。胎児が人と認められないからです。適用を求める13万人の署名があったにもかかわらず、です。
お腹のなかの赤ちゃんも人として扱ってほしい。そう多くの人が望んでいるにもかかわらず、なぜ認められないのでしょうか。専門家によると、仮に胎児を人として認めてしまうと様々な問題が生じるといいます。例えば、適法な人工妊娠中絶をした人が、お腹の赤ちゃんに対する殺人罪に問われる可能性が出てくるそうです。こうした観点から、法律上は胎児を人として扱うことが難しいというのです。
しかしこの法解釈のため、お腹のなかにいたという理由だけで赤ちゃんが被害者として認められないことに、周囲は苦しんでいます。大切な家族にもかかわらず、被害者として認められない。母親の死に加えて二重の苦しみを味わっている家族のために、現状が変わることを強く願います。
一宮の事故の被害者家族の、ある言葉が心に残っています。「胎児が人かどうかという哲学的な議論ではなくて、被害を受けた赤ちゃんに対する救済に目を向けてほしい」。現行法で胎児を人として認めることはやはり難しいかもしれません。それならば、法解釈に委ねるのではなくて、新たな法の整備、つまり条件を限定した上で胎児が被害を受けた場合に救済を受けられる規定をつくるべきです。
参考資料:
・2026年6月19日付 読売新聞オンライン「妊婦死亡事故 実刑判決 胎児に障害『責任重い』禁錮2年6月」
・2026年6月18日付 日本経済新聞デジタル「愛知の妊婦死亡事故、運転の女に実刑判決 胎児の障害にも言及」
・2026年1月27日付 日本経済新聞デジタル「愛知の妊婦事故死、胎児への傷害罪立件見送り 検察が公判で訴因変更」
・2026年6月19日付 朝日新聞デジタル「妊婦死亡、実刑判決 事故で重い障害、胎児への影響言及 名古屋地裁支部」
・2026年6月18日付 朝日新聞デジタル「眠ったままの日七未 『胎児は人か』 家族が突きつけられた問い」
・2026年6月18日付 朝日新聞デジタル「妊婦死亡事故、被告に実刑判決 胎児も重度の障害 名古屋地裁支部」
