「儲けのためならこの店やってないわ」
大阪府箕面市にある喫茶店「マリン」。85歳のママと夫が朝5時から切り盛りしている。物価高の時代にも関わらず、値段はほとんど上がっていない。「近隣の活性化のためにやっている」と話すママは、喫茶店を通して地域の繋がりを支えている。
内閣府の発表では、人との付き合いがない、取り残されている、他の人から孤立していると感じている人の割合は47.0%に及ぶそうだ。半数近くが孤独を感じていると言える。その背景には、インターネットの普及や単身世帯の増加といった社会構造の変化がある。孤独感が決してないと答えた人の95%が今の生活に満足しているのに対し、常にあると答えた人では45%にとどまっている。そんな中、地域の繋がり作りに寄与しているのがこの喫茶店だ。
ママは17年前まで、画廊を経営していた。3カ月に1回ホテルを貸し切り、数百万円、数千万円の絵を売っていた。少しでも儲けるため、顧客のニーズを探り、関係を築いていった。ある大物政治家と朝まで取引の交渉をしたこともある。自身の母が倒れたことから画廊をやめ、4代目の店主として喫茶店を継いだ。画廊主として12人の社員をまとめていたが、今は「店主自身も働かないと。縁の下の力持ちになるのが大切」と、暗いうちから店を開ける。
ここは高齢者にとって、憩いの場になっている。店内ではいつも昭和の音楽が流れ、お客さんのリクエストで変えることも少なくない。また、新聞、雑誌も多くの種類がそろっており、喫煙もできる。昼は勤め人で賑わう。メイン料理とみそ汁にお替り自由のご飯、さらにコーヒー付きで1000円ほど。「皆の喜ぶ顔が見たい。それが楽しみ」と話すママは、「精神的なものを与えている」と自負する。
あるデイサービスに通っている女性は喫煙者だが、施設では吸うことができない。そのため、デイサービスが終わった後はいつも足を向けてくれる。女性の娘さんも「この店なら」と、安心して送り出せるそうだ。また、1年前、がんで余命半年を宣告された男性は今も常連さんだ。「大丈夫や」というママの一言を聞きに通い詰めている。
「全部持って死ねないから」と、少しでも黒字がでればそれで良し。そして、お客さんの笑顔が見られたらいい。そんな考えでやっている奇跡のような喫茶店である。
客同士の会話の輪が広がり、毎日通うことで健康を維持する。家にいればテレビを見ているだけという高齢者にとっては、社会とつながる場でもある。筆者もママに「面倒臭いとか言ったらあかん」などと、喝を入れてもらいに通う。あまり接することのない世代との交流はいつも学びになっている。
コミュニティの連帯が希薄になってきていると言われている昨今、この喫茶店は地域に小さくても強い旋風を起こしているのではないか。スポーツ活動などは、役割分担や休みにくさといった縛りがあることも少なくない。それに比べて、喫茶店は誰でも、行きたいときに自由に入ることができる。
「ママにとっての喫茶店の仕事とは」と問い掛けたら、「気持ちの遊びや」と返ってきた。
参考資料
内閣府孤独、孤立対策室「孤独、孤立対策について」
内閣府孤独、孤立対策室「孤独、孤立の実態把握に関する全国調査(令和7年)調査結果のポイント」

