「こどもまんなか」の社会へ こども家庭庁と児童館で守る、こどもの「居場所」(前半)

こども家庭庁は、2023年4月に内閣府の外局として発足した省庁です。「こどもまんなか」を掲げ、少子化対策だけでなく、いまを生きるこどもや若者への支援に力を入れています。

5月22日(金)に御茶ノ水ソラシティカンファレンスで、一般財団法人児童健全育成推進財団が主催するセミナー「児童館におけるこども性暴力防止法の理解」が開催されました。こども家庭庁からも安里賀奈子氏、吉田昌司氏が登壇し、聴講者との質疑応答の時間も設けられました。

今回、筆者は、「あらたにす」ライターとして、当セミナーに参加しました。そして、現場の声を聞きたいという私の願いに対し、民生委員・児童委員(主任児童委員)でありながら保育士としても働き、多方面でこどもの居場所や教育現場に関わるAさん(東京都在住、60歳)が取材に応じてくださいました。筆者が今回の講演と取材を通じて見えたこと、感じたことを、2回に分けてお届けします。

早急に求められるこどもの「居場所」づくり 児童館の役割は

年々減少するこどもの「居場所」。昔はこども会の集まりや校庭、公民館、空き地など、さまざまな場所でこどもの声が響いていました。「こどもの居場所がないという議論は10年前から出てきていた」とAさん。主な原因は、公園の遊具の取り壊しやボール遊び禁止、飲食店や図書館での学生の勉強禁止などだと言います。23年4月には、こどもの遊び声に対して近隣の一軒から「うるさい」という苦情が出たことで、長野市内の公園が廃止されました。安里さんは「地域でこどもが見えなくなってきている」と指摘します。

セミナーでは、こども家庭庁の成育環境課課長である安里賀奈子氏が「こどもの居場所づくり」と児童館の役割について、講演しました。こども家庭庁は、2023年に「こどもの居場所づくりに関する指針」案をまとめており、「居場所」は重要なアプローチとして位置づけています。

今後の具体的なこどもの「居場所」について、安里課長は「こどもたちの価値観も多様化し、『この場所にいなさい』で済む時代ではなくなっている」「いろんなこどもたちに合わせて、いろんな居場所を」と、新たな方向性を見つけるべきと強調しました。また、「児童館の皆さんはまさにパートナー」と語り、こども家庭庁と教育現場との連携の重要さを訴えるとともに、児童館などへの予算支援についても「何らかの工夫で活動を支援する」意向を示しました。

拡大・変化する児童館 中高生の「居場所」にも

「児童館は小学生まで」といった風潮は、長く続いていました。いま、中高生世代の「居場所」づくりでも児童館の役割が再注目されています。飲食店での長居禁止のほか、共働き世帯が増えて親が帰るまで一人で待つ中高生の多さも問題視されています。NPO法人3keys 代表の森山誉恵(たかえ)さんは、朝日新聞の取材に対し、「自宅が居場所になり得ない子たちにとっては、自宅以外の居場所が整備されていないのは厳しい環境」と述べています。

こども家庭庁が推進する「遊びのプログラム」は、児童館ガイドラインで期待されている「遊び及び生活を通したこどもの発達の増進」に関する具体的な指針で、これに基づく動画「児童館であそぼう」が厚生労働省YouTubeチャンネルに掲載されています。この動画にも、乳幼児向けから中高生向けのものまで、幅広い「遊びのプログラム」が用意されていることが分かります。

Aさんは、「児童館は元々子育て支援の場所で、0歳から小学校6年の居場所だった。中高生の居場所がないことが問題になり、中高生が集えるスペースを作る児童館が増えている」と言います。小学生は基本的に午後5時には帰宅させるが、中高生は部活動などを考慮し、7時まで自由に使える場所を提供するなど、成長に合わせた取り組みがなされています。

しかし、児童館の役割にも課題が残されています。「こどもの居場所を児童館は完全にはフォローできない」とAさん。夜8時以降に保護者が帰宅する家でのこどもの孤独のほか、「児童館にすら来られない子をどう支援するかが重要。居場所を用意して『どうぞ来てください』では不十分」とも語ります。

安里課長は、「『居場所』とは単に場所を提供するだけでなく、こどもが 『いたい』 『行きたい』 『やってみたい』と思って臨む場所であり、こどもに選ばれて初めて居場所になります」と強調しました。これは「こどもの居場所づくり指針」にも示されている課題です。

「こどもまんなか」の必要性 大人こそ意識改革を

次に安里課長が説明したのは、「こどもまんなかアクション」の取り組みについてです。「こどもまんなか」とは、「こどもを真ん中に置いて、周りの大人が手をつないでいこう、こどもと一緒に社会を作っていこう」というものです。取り組みの一例として、SNSなどで「#こどもまんなかやってみた」のハッシュタグを使用することもあります。

「こどもを真ん中に置く」とは、具体的にどのような状況でしょうか。Aさんは、かつての教育委員会などの方針を振り返り、「これまでは大人の価値観で、こどもの意思や権利を勝手に決めていた。今は子供の話を聞くことの大切さを改めて明記している」と、旧来の「大人中心」的なこども政策からの脱却を意図するものと見ています。今の大人は、「かつてこどもだったとき、しかるべき権利が守られなかった世代」「そのせいか、無自覚にこどもの権利を認めない人が多い」との分析も。「こどもまんなか」は、こども世代のみならず、大人世代に周知される必要があります。

つい先日、プロ野球巨人の阿部慎之助監督が長女への暴行容疑で現行犯逮捕され、監督を辞任した事件が起きました。この問題を取り上げた朝日新聞の社説は 「家族間の暴力はかつて、軽視される傾向があった」「児童相談所と警察の連携不足や対応の遅れが明らかになるケースは度々あった」と指摘しています。「こどもまんなか」を尊重する社会へと、全ての世代に意識改革が求められます。

 

次回は「『こどもまんなか』の社会へ こども性暴力防止法で」を考えます。

 

参考記事

朝日新聞デジタル

2023年7月26日 こどもの声の苦情きっかけに市が公園廃止 「住民不在」で進んだ議論 https://digital.asahi.com/articles/ASR7Q7SN0R7CUOOB017.html

2026年4月5日 中高生の居心地のいい場所は?「交流求めない」ニーズとのギャップも https://digital.asahi.com/articles/ASV3Y4C8ZV3YULLI013M.html

2026年5月29日【社説】阿部監督の辞任 家族からの暴力、相談者を責めない社会に https://digital.asahi.com/articles/ASV5Y2J9LV5YUSPT00MM.html

読売新聞デジタル

2023年12月13日「こどもの居場所づくりに関する指針」案まとめる こども家庭庁…オンライン空間も含めるhttps://www.yomiuri.co.jp/yomidr/article/20231129-OYTET50005/

日本経済新聞デジタル

2022年2月25日 こども家庭庁、23年4月発足へ 他省庁に勧告権 政府が閣議決定へ https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA243WO0U2A220C2000000/