「こどもまんなか」の社会へ こども性暴力防止法で(後半)

筆者は、セミナー「児童館におけるこども性暴力防止法の理解」に「あらたにす」ライターとして参加しました。さらに民生委員や保健士として多方面でこどもの居場所、教育現場に関わるAさん(東京都在住、60歳)からもお話を伺いました。

筆者が今回の講演、取材を通じて見えたこと、感じたことを、前後半の2回に分けてお届けします。

 

こども性暴力防止法 性暴力が生まれる可能性を知る

講演の後半では、こども家庭庁支援局参事官の吉田昌司氏が「こども性暴力防止法と児童館」というタイトルで、今年末に施行される「こども性暴力防止法」について説明しました。この法律により、子供の教育や保育に関わる事業者が、性暴力を防ぐ安全措置を義務付けられるようになります。

内閣府の調査によると、18歳未満が被害に遭った性暴力は2025年で4858件が摘発されています。こどもへの性暴力は過去10年で最多となり、3年連続で増加しています。子供の教育や保育に関わる事業者とこども家庭庁が連携し、こどもを守る仕組み作りに取り組むことが求められています。

こどもへの性暴力の特徴は、主に「深刻さ、相談のしづらさ、発見のしづらさ」の3つに分類されます。特に「相談のしづらさ」については、こどもが主体的に被害を相談することが難しい点に注意が必要です。吉田氏は「被害から数十年経過してからようやく相談ができた方もいらっしゃる」と、事態の深刻さを語りました。こども性暴力防止法についても、「性暴力に対する意識を高めつつ、こどもが相談しやすいような職場・環境作りをしていくこと」が大切になっていきます。

教育・保育現場における性暴力の可能性について、吉田氏は「指導する立場の人の明確な支配性「日々こどもと接する継続性」「保護者などの目が届かない閉鎖性」について指摘し、「性暴力はどこでも起こり得るもの。未然防止、早期発見に努めていくことが重要」と、事業者が教育・保育の環境の特徴を理解した上で性暴力防止に取り組むことの大切さを強調しました。こども性暴力防止法では、対象となる事業者を義務対象、認定対象の二つに分けています。学校(小学校・中学校・高校・特別支援学校など)や認可保育所、認定こども園、児童養護施設、障害児施設などの設置者は、当然なことに「支配性」「継続性」「閉鎖性」の3要件を満たすため、公立・私立を問わず、すべて義務対象となります。吉田氏は「現場の皆さんとのご協力でいい制度にしていきたい 」と、性暴力防止への積極的な取り組みを呼びかけました。

 

こどもへの触れあい 現場のポイントは

現場でこどもと関わる場合、こどもを尊重する触れあいが求められます。Aさんは、こどもの身体に触れるとき、「必ず言葉で同意を得る」と言います。研修などで明記されたわけではないが、子育て雑誌などの情報を通じて、身体接触により気をつけるようになったのです。基本的な身体接触は日々のルーティーンの中に組み込まれているため、「今からおむつ変えるけど、いい?」といった声かけには、こどもも「うん!いいよ!」と答えることが専らだそうですが、「相互的なコミュニケーションは大切」で「無理矢理触られたかどうかは、案外こどもの記憶に残るという。こどもが思春期になった時に、嫌だと思ったことを嫌だと伝えられるようにしなければならない」と、幼少期の声かけが重要であることを強調しました。

また、オンラインや盗撮などの身体接触を伴わない犯罪や悪質なセクハラなども広く規制対象とされています。 SNS上の私的なやり取りなどの「不適切な行為」は一見すると「指導の延長」「親身な対応」と受け取られる場合もありますが、状況が重なり関係が深まっていくなかで、性暴力へとつながる不適切な行為に該当するおそれがあると、「こども性暴力防止法施行ガイドライン」は注意を喚起しています 。

 

日本版DBS 性犯罪者に対する厳罰化を

こども性暴力防止法には、雇用と関わる点で注目されてきた取り組みが盛り込まれます。業務に就く人の性犯罪歴を確認する「日本版DBS(犯罪事実確認制度)」の仕組みです。この法律は24年6月に成立し、今年12月25日に施行される予定です。 Disclosure and Barring Serviceの略称であるDBSは、もともとはイギリスで導入された制度です。イギリスのDBSでは、児童と接する仕事に就く人をはじめ、高齢者、障がい者など社会的な弱者と関わる人も対象としたうえで、性犯罪などの前科の有無を公的に確認し、リスクのある人が現場に立つことを防ぐ仕組みとして運用しています。

日本版DBSでは、こどもと接する業務の従事者の雇入れや配置転換の際に、事業者は過去の性犯罪の確認が求められます。確認対象は、拘禁刑の執行終了から20年未満、執行猶予判決確定から10年未満、罰金刑執行終了から10年未満の人になります。

画期的な制度である一方で、懸念点もあります。犯歴という高度な個人情報を扱う点について、吉田氏は「労働法を守っていくうえで、反対の意見もある」ことを認め、法の整備については事業者や現場従事者の理解を得たうえで進める方針を示しました。

こどもに対する性犯罪によって有罪となった者が、その後同種の犯罪を起こす割合(同種再犯率)は、法務省の調査で、小児性愛型の再犯率が5年間で5.9%、こども以外も対象とした痴漢の再犯率は36.7%、盗撮は28.6%と、高い数字が確認されています。今回の法整備により、再犯防止への取り組みは大きく進むことでしょう。冤罪や個人監視などのリスクを排除する仕組み作りも含めて、こどもを性被害から守る社会体制の一刻も早い確立を望みます。

 

 

参考記事

朝日新聞デジタル

2025年12月22日 【そもそも解説】子どもの性被害どう防ぐ? 性犯歴を確認する新制度 https://digital.asahi.com/articles/ASTDM5DP3TDMUTFL01SM.html

2026年3月4日 こども性暴力防止法とは? 学校と教員がとるべき対応と留意点を解説 https://www.asahi.com/sensei-connect/articles/16355891

2026年5月29日 【社説】阿部監督の辞任 家族からの暴力、相談者を責めない社会に https://digital.asahi.com/articles/ASV5Y2J9LV5YUSPT00MM.html

産経新聞デジタル

2026年4月1日 増える子供への性暴力に対策は 過去10年で最多…SNSで被害拡大 カギ握る親子の対話https://www.sankei.com/article/20260401-S4MAYDXJS5EUHMLCEROQEIUUB4/

東洋経済オンライン

2024年5月24日 子どもと接する仕事に「性犯罪歴を確認」する是非 小児性愛型の同種再犯率は5年間で5.9% https://toyokeizai.net/articles/-/755815?display=b