韓国の何を見るか

「韓国の国益に合わない」

22日、韓国政府は日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄を決定した。韓国の経済紙記者である筆者の友人が「予想していなかった事態。私は国会担当だが、とても驚いた」と言うのだから、韓国国内でも想定外の出来事だったのだろう。日韓の対立はついに安全保障分野にまで及んでしまった。韓国の世論調査機関「リアルメーター」の調査によると、GSOMIAの終了決定について肯定的評価が54.9%(とても良い決定35.3%、概ね良い決定19.6%)、否定的評価が38.4%(大変誤った決定26.4%、概ね誤った決定12.0%)だった(26日付東亜日報より)。一方、読売新聞が23日〜25日に実施した世論調査では、韓国政府のGSOMIA破棄について「理解できない」と答えた割合が83%に及んだ。日韓の世論は対照的になっている。

▲「安倍政府を糾弾する集会」に集った市民たち。「NOアベ」と書かれたカードを掲げ、GSOMIA破棄を訴えていた。15日、ソウル市の光化門広場で筆者撮影。

▲日本大使館近くに張り出された横断幕。「GSOMIAをただちに破棄しろ」と書かれている。15日、ソウル市の日本大使館前で筆者撮影。

昨秋の韓国大法院の「徴用工判決」以降、日韓の溝は深まるばかりである。ここ最近の新聞の見出しを見るだけでも、日韓関係の葛藤を思い知らされる。「理解できないアメリカの反応と開き直る日本(23日付ハンギョレ新聞)」「河野外相『断固として抗議』(23日付日本経済新聞)」「安倍、ホワイトリストの韓国排除を翌日に控え『国家間の約束を守れ』(27日付京郷新聞)」「韓国への信頼関係、損なわれる状況続く…(27日付読売新聞)」。極め付けは23日に起きた事件である。ソウル市の繁華街・ホンデで日本人観光客が酔っ払った韓国人男性に髪を引っ張られるなどの暴行を受けた。日韓の報道機関は一斉にこの事件を報じた。Twitterではこの事件に厳しい反応が出た。「日韓関係が悪化した時期にのこのこ(韓国へ)行くほうがどうかしている」「韓国に行く人はこの現状を分かっていないと自己責任」。もはや韓国政府だけでなく韓国全体に対するイメージが悪く見られている。あらたにすメンバーの一人も「解決済みの植民地時代の問題をぶり返してくる、韓国の政府や司法に対して強い不信感を覚えます。(韓国は)やる事なす事とにかく汚い・セコい・ズルいイメージがあります」と、持論を展開していた。残念ながら、ネット上ではこのメンバーと同様の意見が目につく。

確かに最近の関係を見ていると韓国に疑念を抱くかもしれない。しかし、日本のニュースを見るだけで韓国の全てを否定するのは間違っている。報道で見る韓国と、現地で見る韓国は多分に異なる。東京特派員を務める韓国の新聞記者は「特派員が伝えられることは限定的。日本のメディアの報道を追うだけで1日が終わることもある」と記者にも限界があることを漏らしていた。ソウルの日本人特派員も「全ての出来事を追うことはできない」と話していた。私たちが日本で見るニュースは、ごくごく限定的なのだ。

事実、心が温かくなる出来事や韓国人が日本人を助けた、などという前向きなニュースは日本ではあまり報じられていない。
23日付の韓国経済新聞は日韓関係の緊張だけでなく、このような出来事も報じている。今月18日、ソウル金浦空港から大阪に向かっていた大韓航空の機内で、12歳の日本人女児が一時呼吸困難に陥った。乗務員が救命措置を取った結果、命を取り留めた。呼吸困難の原因は抜けた乳歯が気道に詰まったためだという。

24日には安倍首相を糾弾するデモが開かれていたソウル光化門広場近くで、日本人男性がフリーハグをしている様子が韓国KBSニュースで報じられた。多くの市民が男性とハグをしたと伝え「冷え込んだ韓日関係の中で安倍政権に対する市民の怒りは相変わらずだが、両国国民の友愛が変わらないことを望む心は互いに違わなかった」と締めくくった。

個人的なニュースも伝えたい。先週ソウルを訪れた際、繁華街でスマホを落とした。一緒にいた韓国の友人と地下鉄の駅事務室、警察、商業施設のインフォメーションセンター、あらゆる場所に足を運んだが、見つからない。筆者は半ば諦めていたが、友人は「日本から来た大切な友人なんです。届いたら連絡をください」と頼み込んでくれた。警察官は紛失物届けを全国の警察に通達してくれ、駅務員は駅構内全ての係員に落とし物の特徴を伝えてくれた。すると数時間後、近くの商業施設内でスマホが見つかった。発見の旨を各所に伝えると皆「見つかってよかったですね」と笑顔になってくれた。親身になってスマホを探してくれた韓国の方々にはどれだけお礼をしても足りないくらいだ。

「反日国家」とまで言われる韓国だが、「日本政府」を批判しても「日本人」を忌み嫌う姿勢は微塵も垣間見えない。一部の報道を見るだけで、韓国の全てを判断するのは稚拙である。韓国を忌み嫌う前に、現地に足を運び、個人間の交流をすることも大切だ。肉眼で見る韓国はネットで見える韓国、報道で見える韓国とは全く異なる。

「そんなの個人の出来事に過ぎない」「何があろうと韓国は理解できない」などと思っているそこのあなた。見えない韓国を見る努力、していますか?

参考記事:
27日付日本経済新聞朝刊(東京13版)9面「韓国、協定破棄見直しも」
同日付読売新聞オンライン「韓国への信頼関係、損なわれる状況続く…首相会見要旨」
同日付京郷新聞「아베, 화이트리스트 한국 배제 하루 앞두고 “국가간 약속 지켜라”」
( http://m.khan.co.kr/view.html?art_id=201908271007001 )
26日付東亜日報「지소미아 종료 결정, 찬성 여론 54.9%, 반대보다 16.5%p 높아」 (http://www.donga.com/news/article/all/20190826/97113696/1 )
25日付読売新聞オンライン「日韓の安保連携「必要」72%…読売世論調査」
同日付朝日新聞電子版「ソウルで男が日本人女性の髪つかむ 韓国内から批判殺到」
24日付韓国KBSニュース「반아베 집회 속 ‘평화 프리 허그’ 나선 일본인 청년」( http://mn.kbs.co.kr/mobile/news/view.do?ncd=4269417#kbsnews )
23日付日本経済新聞朝刊(東京14版)1面「日韓軍事協定を破棄」
同日付朝日新聞朝刊(東京14版)1面「韓国、軍事情報協定を破棄」
同日付韓国経済新聞「대한항공 승무원, 응급조치로 ‘호흡곤란’ 아이 구해」( https://www.hankyung.com/economy/article/2019082338241#Redyho )
同日付ハンギョレ新聞「[사설] 이해할 수 없는 미국의 반응과 적반하장 일본」
( http://m.hani.co.kr/arti/opinion/editorial/906923.html?_fr=gg#cb#csidxf45bde96f0b232184ec06ab42aa5154 )