隣国から 「令和」を見つめる韓国の人々

元号が変わり新たな時代が到来した時、筆者は留学先の韓国にいた。

SNS上では日本にいる友人たちが「さよなら平成」をタグにつけ、たくさんの投稿をしていた。そのころ筆者は同室の台湾人学生たちに「平成」の意味と天皇制について説明していた。女性天皇や女系天皇についてどう考えているのか、という鋭い質問もあり答えるのに時間がかかった。日本の仲間たちと喜びを分かち合えなかったのはさみしいが、少し変わった時代の迎え方に楽しくもあった。

 

さて元号が変わり1日が過ぎた。日本国外にいると令和に関するニュースに接しないのではと思われそうだが、そうでもない。こちらのニュース番組ではトップで報道していたし、新聞にも多くの記事が出ていた。この時代、ネットがあれば日本のニュース番組や新聞の内容もすぐわかる。そこで日韓で「令和」に対する報道がどのように違うのか比較してみた。

 

▲1日、午前0時。韓国でもツイッターのトレンドに「헤이세이(平成)」の文字が (中央)。そして、日韓のジャニーズファンたちが交流を深めていた。ちなみに、その上は「野菜 好き嫌い」、下段はKPOPグループEXOのメンバーであるベッキョンの誕生日を記念して販売されるグッズについて書かれている。筆者撮影。

 

比較するにあたって参考にした韓国紙は朝鮮日報と中央日報である。どちらも1日、「令和」に関する記事が数本上がっていた。とくに中央日報はHot issueと題して「令和」に関する話題をカテゴリー分けしており、多大な関心を払っていることが伺えた。

日本は朝日新聞、日本経済新聞を読み比べた。朝日新聞のデジタル版では「祈りの旅」や「平成から令和へ」などデジタルを生かした企画もある。

 

さて記事の中身はどうかというとやはり大きく異なる。日本が天皇、皇后両陛下のこれまでの人生を振り返るような内容が多いのに対して、韓国では天皇のあり方やこれまでの発言を分析する記事が多かったように思う。

 

朝鮮日報には以下のような文章が掲載されていた。

―新天皇の性向は平和主義と護憲という2つのキーワードに要約される。(中略)新天皇は第二次世界大戦終結から70年にあたる2015年の会見で、「私自身、戦後生まれであり、戦争を体験していないが、戦争の記憶が薄れようとしている今日、謙虚に過去を振り返ると共に、戦争を体験した世代から戦争を知らない世代に、悲惨な体験や日本がたどった歴史が正しく伝えられていくことが大切だと考えている」と述べた。―

 

中央日報でも平和と憲法について触れていた。

―第126代徳仁新天皇はこの日「(日本の)国民の幸せと国の一層の発展、そして世界の平和を切に希望する」としながら、即位後初めてのお言葉で世界平和に言及した。(中略)だが、平和憲法と呼ばれる現行の日本憲法への守護の意志は明らかにしなかった。前日退位した明仁上皇が1989年1月9日即位後初めて「皆さんとともに憲法を守って平和と福祉増進を希望する」として憲法守護のメッセージを伝えたことに比較される部分だ。― 

時代が新しく変わっていく中で前を見て進んでいくことは大事だが、過去の出来事もまた忘れてはならないと、両国の新聞を比較するなかで思い至った。

 

朝鮮日報にもう一つ印象深い記事があった。東京特派員の李河遠(イ・ハウォン)氏の記事だ。

新天皇の即位に関する企画記事を書いていると、読者から「この記事を掲載した意図が気になる。韓国は日本をロールモデルにすべきだというのか。客観性のない記事だと思う」との電話を受けたという。その指摘に対して彼は以下のような回答をしたという。

―反日感情が最高潮に達している今日このごろの状況で、「日本たたき」の枠組みから外れた記事を書くことに負担がかかる面があるのは事実だ。昨年末、韓日関係が一筋の光もない暗闇に閉じ込められたころは「お前は日本人か」とも言われた。(中略) すべての報道機関で、日本の記事については、ほかの記事よりも数倍「自己検閲」をして報道するのが韓国的な状況だと言えるだろう。―

 

筆者が昨日読んだ記事の書き手の多くも、こうした重荷を背負いながら、新時代を迎えた日本を報じたに違いない。彼らの苦労がいつか良好な日韓関係という形で報われることを祈った。ソウルで迎えた令和2日目である。

 

参考記事:

朝日新聞

祈りの旅

https://www.asahi.com/special/heisei-inori/?iref=comtop_spebox_n01

平成から令和へ

https://www.asahi.com/topics/word/%E6%96%B0%E5%85%83%E5%8F%B7.html

5月1日付日本経済新聞夕刊2面「『令和』幕開け、海外も関心」

5月2日付日本経済新聞朝刊オピニオン面「令和 アジアはどう見る」

朝鮮日報

5月1日付朝鮮日報「父に続き平和主義路線の新天皇『戦争の悲惨な体験正しく伝える』」

http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2019/05/01/2019050180017.html

5月1日付朝鮮日報「【コラム】東京特派員が天皇即位の記事を書く理由」

http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2019/05/01/2019050180018_2.html

中央日報

5月1日中央日報「新天皇『世界の平和を切に希望』…平和憲法の言及はなかった』」

https://s.japanese.joins.com/article/j_article.php?aid=252958&servcode=a00&sectcode=a00