問題提起型広告は愛されない?

今朝の新聞を読んでいると、巨大なハートが姿を現しました。

今日の朝日新聞朝刊。真っ赤なハートが2つ(筆者撮影)

その大胆さに度肝を抜かれました。どこの広告?ハートマークの意味は?続けてそんな疑問が浮かびます。特にメッセージはなく、左端に「BOUM3.COM」と「BOUM!BOUM!BOUM!PROJECT」の文字が小さくあるのみ。さっそくこのサイトを調べてみると、「BOUM!BOUM!BOUM!」とは3月15日から東京・豊洲で開催される香取慎吾さんの個展のタイトルでした。横向きのハートはBを表していたのです。

話題になる広告には、驚きや気づき、ポジティブな感情を与えてくれるものや、そのメッセージが議論を呼ぶものがあります。最近だと幸楽苑の「2億円事件」広告や西武・そごうの「パイ投げ広告」でしょうか。どちらも特定の商品の販売促進ではなく、問題提起型になっています。前者は、創業後初めて元日休業することを伝えています。「1月1日の売上およそ2億円を失ってでも、“働く人の気持ち”を守りたい」という思いは、世間の働き方改革の流れともマッチして、おおむね好意的に受け止められているようです。

一方、後者には批判が目立ちました。顔にパイを投げつけられている女性の写真が強烈です。

モデルの顔が見えないが、実は女優の安藤サクラさん(筆者撮影)

各段落では次のようなコピーが印象的です。

女であることの生きづらさが報道され、そのたびに、「女の時代」は遠ざかる。

活躍だ、進出だともてはやされるだけの「女の時代」なら、永久に来なくていいと私たちは思う。

時代の中心に、男も女もない。わたしは、私に生まれたことを讃えたい。来るべきなのは、一人ひとりがつくる、「私の時代」だ。

ぶつけられたパイは「女であることの生きづらさ」を表していて、同時に、望んでいないのに押しつけられた女性像への否定でもあるのかもしれないと感じました。一つだけ、報道されるから「女の時代」が遠ざかるの?という疑問は湧きましたが、ほかのことばは確かに、とうなずけるものでした。これは、筆者が自分の性別をあまり意識しておらず、「私であること」を大切にしているからです。

だからこれが炎上していると聞いて、理由が気になりました。賛否両論ありましたが、批判的な意見にはパイ投げへの不快感を示すものが多かったです。罰ゲームによく使われるように、相手を辱める行為だという印象が強いこともあります。また、はじめに触れられた「女性ゆえに感じる生きづらさ」が「私の時代」に押され、結局置いてけぼりにされていると感じた人もいたようです。現実には、乗り越えなければならない壁がいくつも立ちはだかっています。育児と仕事の両立、性的搾取、さまざまな抑圧など。筆者があまり違和感を覚えなかったのは、今はまだ、女性特有の苦しみを味わう場面をそれほど経験していないということも大きいのでしょう。

今回の広告はそうした課題を意識した上での挑戦だったのでしょうが、改めて、表現のしかたというのは難しいものだと思いました。

筆者が思う「愛される広告」とは、先に述べたように驚きや気づき、ポジティブな感情を与えてくれるものです。さらに、共感できるか、という点がとても大切です。西武・そごうの広告は新たな価値観を提案している時点で、そもそも万人受けは狙っていないのでしょう。さまざまな意見が寄せられることで、この社会の現状や、一人ひとりが納得のいく方向を確認できる。問題提起型広告にはそうしたよさがあると思います。ただ、どんな商品でも誰かを傷つけたり貶めたりするような表現はできるだけ避けなければいけません。この業界のつくり手は、いわば「社会の感情」を一生懸命観察しているのかもしれません。

参考記事:9日付 朝日新聞朝刊(東京12版)28面 全面広告
1日付 日本経済新聞朝刊 38面 西武・そごう全面広告
BOUM!BOUM!BOUM!(http://boum3.com/