デジタルで読まれるということ

今週は新聞週間です。

あまり一般には知られていませんが、新聞についての啓発のための週間です。アメリカの「ニューズペーパー・ウィーク」をモデルに創設されたもので、新聞大会の開催や「新聞週間標語」の募集が行われます。

今年の新聞大会は16日に仙台市の仙台国際センターで開かれ、増税時に新聞へ軽減税率を適用するよう求める決議を採択したほか、新聞協会賞の授賞式が行われました。受賞は以下の6件でした。

編集部門
朝日新聞社 財務省による公文書の改ざんをめぐる一連のスクープ
毎日新聞社 キャンペーン報道「旧優生保護法を問う」
河北新報社 連載企画「止まった刻(とき) 検証・大川小事故」

経営部門
河北新報社 「いのちと地域を守る」震災伝承・防災啓発プロジェクト
信濃毎日新聞社 業務改革、AIと向き合う 記事自動要約への挑戦

技術部門
編集部門向けデジタル指標分析ツール「Hotaru」の開発

新聞協会賞というと優れた報道に贈られる、というイメージがありますが、実際には経営や技術面での表彰もあるということを、17日付の紙面読んで初めて知りました。そして、個人的にこの中で1つ気になったのが技術部門でした。

新聞業界は今、デジタルの波と戦っています。新聞通信調査会の2017年度の調査では、新聞の朝刊を「読む」と答えた人は全体の68.5%であり、うち毎日読むのは48.6%、年代が下がるほど割合は下がる傾向にあります。それに対してインターネットで記事を読む割合は増えており、同71.4%で年代が下がるほど割合は上がります。

取材面でのデジタル対応については以前、「SNS取材の是非 事件から考える」でSNS取材を取り上げましたが、配信面でのデジタル対応は各社とも苦戦しているようです。法政大学の藤代裕之准教授は著書『ネットメディア覇権戦争』内で、ネット黎明期にIT企業が寡占状態で価格設定をしたことが原因で、記事単価が過小に設定されてしまったのだと解説しています。IT企業が90年代以降、ニュース事業に参入してから、新聞社や通信社は相次いで記事配信で契約しました。しかし、ネットニュースで儲けるという考えを持つ社が少なかったせいか、利用者数が増えても価格設定は維持され続けたといいます。

インターネットで配信する記事の収入源は、有料会員の購読料のほかは閲覧者数(ページビュー数、PV数)に比例した広告費によるものがほぼ全てです。しかしその広告費が低い状況が、依然続いているのです。

焦りが見え隠れするようにも思えます。今回受賞した朝日新聞社の「Hotaru」は、デジタル上での読者の動向を分析し、記者や編集者にフィードバックするシステムです。いま、どんな内容が人気なのかを、一瞬で読み取ることができます。編集部門ではこれらの指標を参考に、読者の関心にこたえるコンテンツ作りに取り組んでいるといいます。

これまでリアルタイムの読者の反応を組み込みにくかった編集部門に、技術で対応したということが評価されての受賞だったと思います。ただ、ひとつ心配なのが「ネットで人気だから」という理由で安易な書き換えが起きないかということです。一部の新聞社では、紙面に載せないウェブ限定の記事を用意するところもあるようです。紙面に載せきれなかったと言うよりかはウェブの読者層向けに書かれた文章です。

長らく新聞社は編集と広告、販売部門を独立させて運営してきました。しかしデジタルという荒波の中で、その状況は変わりつつあります。安易な人気取りを意識し始めた瞬間、編集の独立は失われてしまいやしないでしょうか。華々しい受賞に水を差す気はさらさらありませんが、少し心配になりました。

参考記事
17日付 朝日新聞朝刊(東京13版)37面(社会)「新聞協会賞 本社2件表彰」
17日付 読売新聞朝刊(東京13S版)35面(社会)「「知る権利にこたえる」 仙台で新聞大会」
17日付 日本経済新聞朝刊(東京13版)34面(社会)「次世代の読者づくり討議 新聞大会」
9月5日付 朝日新聞デジタル版「Hotaruでデジタル分析 読者ニーズ読み取り応える」

参考資料
新聞通信調査会『メディアに関する全国世論調査』
藤代裕之著『ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか』(光文社新書)