SNS取材の是非 事件から考える

9日午後9時50分ごろ、神奈川県の新横浜―小田原間を走行中の新幹線の車内で、刃物を持った男が乗客に切りつけ、男性1名が死亡、女性2名が重傷を負う事件が起きました。このことを最初に伝えたのはNHKで、午後10時4分。車内で事件が起きてからわずか15分ほどでした。その後、共同通信(17分)、テレビ朝日(24分)と各メディアが続きます。列車内という連絡の取りづらい特殊な空間であるにもかかわらず、いずれも30分以内に速報を出したのです。この速さの背景のひとつに、「SNS取材」と呼ばれるものがあります。

SNS取材とは、主にツイッターなどのSNSを使いメディアが取材を行うことを指します。近年よく使われる取材方法ですが、ネット上ではしばしば問題視する声が上がります。

今回に至っても例外ではありませんでした。NHKの第1報からわずか2分後、各社のツイッターアカウントが「取材」しようと動き始めました。

―――「○○社会部のものです。お話を伺いたいのですが、よろしければDMでやり取りさせていただけないでしょうか?」

SNSの性質上、このやり取りは全世界に公開されます。しかし、近年では関係のないユーザーが勝手に「嫌です」「自分で取材しに行け」と横槍を入れることがあります。少なくとも、この取材方法をよく思っていない人が一定数居ることは確かです。

そこで筆者の友人2名にSNS取材の是非について尋ねたところ、どうやら「被害者やその関係者の心情を無視したと受け止められかねない文面」や、「同じ局で複数の番組が別々に取材すること」が問題点であるとのことでした。確かに、事件の起きている現場で、悠長にSNSで状況を説明できる一般人はそう居ないでしょう。相手の心情を無視した加熱取材(メディア・スクラム)は、批判される対象となっても仕方がないのかもしれません。

新しい方法だけに、問題も山積みです。昨年秋に起きた座間の連続殺人事件では、警察発表の前に被害者の情報がネットに流出しました。SNSで取材する際、公開メッセージで公表されていない被害者の氏名を出してしまっていたことが原因と考えられています。ネットでは、一つの情報から交友関係などの関連情報が重なることで、名前から個人情報を特定されるリスクがあります。

はたして、これらはSNS取材を否定する材料になるのでしょうか。テレビの速報性という役割を考えれば、速さを求めることはおかしなことではありません。以前と違い、情報の拡散が速くなったSNS上においては、なおさらでしょう。また、本来であれば対面で取材することが第一ですが、道路状況などの物理的要因で、記者の到着が遅れることは容易に想像できます。電話取材やメール取材といった方法が以前からあることを考えれば、現地に行くことのみが必ずしも優先される要素であるとは限らないはずです。誰でも見ることのできるというSNSの性質が、呼び方は悪いですが「野次馬」を引きつけやすくしているようにも見えます。ネットで言われているような取材方法に関する怠慢さは、実際にはそこまでは無いように思えるのです。

とはいえ、加熱取材にならないよう、取材者側がある程度モラルを持つことは大前提でしょう。個々の事例はさておき、SNS取材そのものの意義は否定されるべきでは無いと考えます。加熱しているのは取材側だけではありません。

みなさんはいかがでしょうか。

参考記事:
10日付 朝日新聞(東京14版)1面「新幹線で切られ男性死亡 2人重傷 22歳男を逮捕」
同日付 読売新聞(東京13S版)1面「新幹線 乗客切られ死亡 2人重傷、容疑の男逮捕」
同日付 日本経済新聞(東京★14版)31面(社会)「新幹線で男性刺され死亡 乗客2人重傷 容疑の男逮捕」

参考情報:
Twitter「新幹線 OR 東海道新幹線 filter:verified since:2018-06-09 until:2018-06-10 – Twitter検索」 10日午後5時17分アクセス