ビル清掃に「消えもの係」 裏方の仕事に注目

社会はさまざまな仕事で構成され、支えられている。それを実感する光景にしばしば出会います。

たとえばアルバイト先に行く途中、ビルの敷地を一生懸命掃除している男性がいます。よく見ると、彼は地面に埋め込まれたタイルとタイルの隙間を磨いていました。いわゆる目地(めじ)というもので、汚れやすく落ちにくい部分なのでこまめにきれいにする必要があります。てっきり雨ざらしにしているものと思っていましたが、あのようなところも掃除している人がいるのだと驚きました。そのビルは入居している企業の表札もピカピカで、鏡に使えるほど。それも誰かがその輝きを保っているのでしょう。

高層ビルの窓ガラス清掃はよく見かけます。バイト先では窓際で作業しており、先日も目の前に降りてきた清掃業者と目が合ってしまいました。公園での炊き出しボランティア(関連の投稿「知ってる?ファンドレイザー NPOを支える人々」)で出会った中年の男性はよくこの仕事をしていると言っていました。風にあおられて死にかけたこともあったとか。危険度が高いと高賃金というイメージがありますが、必ずしもそうではないケースもありそうです。

今日の日経新聞に載っていた「消えもの係」もまた裏方の仕事です。テレビや映画で使う花や食べ物などを業界用語で「消えもの」といいます。フラワーアーティストの石橋恵三子さんは、長寿番組「徹子の部屋」で第1回放送から花を生け続けてきました。「ルールル、ルルルルールル…」というおなじみのテーマソングと、徹子さんとゲストの間に飾られた大きな花。いずれもあの番組のシンボルです。

記事を読んで驚いたのは、石橋さんの観察眼です。

ゲストが男性であれば徹子さんの衣装が派手に、逆に女性だと控えめになる。ここから導き出した王道のルールは『男性の場合の花はおとなしめの色味、女性は華やかに』。

まったく気がつきませんでした。ネットもない放送開始当初は、まず性別や年齢といった基本情報を確認し、最近の話題や出演作などを調べて本人のイメージに合わせていたといいます。出演者を引き立てるけれど目立ち過ぎない。そんな絶妙なバランスもすべて計算されているとは恐れ入りました。

初めて消えもの係を知ったのはNHKの「サラメシ」という番組です。ドラマで使われる撮影用料理を専門に作っている吉富有沙さんという方にスポットが当てられていました。限られた時間で何種類もの料理を作り、ファンタジードラマに使う架空の食べ物も考えてこしらえるなど大変そうでしたが、それらをてきぱきとこなす姿が印象的でした。

このほかにも、なくては世の中が回らない裏方の仕事がたくさんあります。それらに気づくたび、心の中で小さく「ありがとう」とつぶやいています。

参考記事:28日付 日本経済新聞朝刊(東京13版)36面(文化)「『徹子の部屋』生け花係 第1回放送から1万回以上、毎回違うアレンジで」