東京をモデル都市へ

 東京都議会議員選挙が近づくいま、問われてくる都政の課題。大きな焦点となっているのは、豊洲移転問題や小池都政の方向性など比較的短期間のうちに解答が必要とされる問題がばかりです。これらの問題が、大きな注目を浴びることは当然だと思います。それに比べ、「少子高齢化社会にどう対応していくか」といった長い間忍耐強く取り組まなくてはいけない問題はメインの争点になりにくい印象があります。

 国連経済社会局が21日に発表した未来予測によれば、世界の人口は2050年に98億人、さらに2100年には112億人に到達する模様です。日本は現在の1億2700万人が8500万人まで減少する見込みになっています。

 人口の減少や高齢化は、経済規模の縮小に繫がることから日本国としては大きなダメージを受けます。これに対し昭和初期のような「産めよ、増やせよ」といった機械的かつ制度的な人口増加政策は、女性を一種の生産装置とみなす性差別に他なりません。しかし、根本的な解決手段としては子供の数を増やすしかないのも事実です。

 人権を尊重しながら少子高齢化を脱却するには、環境の整備が大切でしょう。それには既存の制度や価値観を一新する必要があります。

 以前、都心部の団地に住む核家族の特集したNHKの番組を見たことがあります。昭和38年に放送されました。それによると、両親共働きのため家の鍵を持って学校に通う子供たちを「鍵っ子」と呼んでいたそうです。50年代、日米で「専業主婦化」が行われ、理想とされていました。しかし経済構造上昔から無理があったことが番組から伺えます。

 特に日本では学校教育以外の塾での学費負担があるなど、子育てに基本費用以外の出費がかさみます。共働きを迫られる側面があります。そのため妊娠後、離職をしなくても済むように男女の育休制度を推進すること、性差別的分業をやめることこそ、安心した出産の後押しになるのではないでしょうか。また、一世帯の子供の数が増えても補助金を交付するなどの措置を取ることで子育てしやすい環境を整えることが出来ます。

 予算は有限のため、どこに優先度を与えるかは議論を必要としますが、少子化対策と高齢化対策は同時に行わなければなりません。高齢化の問題も環境づくりが欠かせません。「介護離職」をしなくて済むように介護サービスを充実させることやまだ働きたいと考えている高齢者に長年培われた貴重な経験や知識を生かせる場を提供するなどがそれにあたります。

 世界でも有数の大都市である東京がどの世代の住民にとっても快適なモデル都市になることで、日本全体に変革を及ぼすことができると期待しています。

29日付 読売新聞朝刊 29面(地域)「老いても安心の都市像を」