生活保護は悪くない

 生活保護法第1条は
「この法律は、日本国憲法第二十五条に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする。」とあります。

 この憲法25条は、中学の「公民」や高校の「政治経済」でいやというほど覚えさせられました。さらに、大学では憲法の授業があるので、その理念や解釈を学びました。条文は、「健康で文化的な最低限度の生活」をすることは国民の権利でありその反面、国家はそのような生活を国民に保障する義務が発生することが書かれています。

 生活保護制度はこのように憲法の生存権を理由に成立している制度です。そして、あくまでも、自立できるまでの手段に過ぎないのです。第2条では要件をすべて満たした人には無差別平等に受給することができるとされています。

 しかし、日本ではあまり利用されていないという実態があります。日本弁護士連合会によると、生活保護を利用する資格のある人のうち、現に利用している人の割合は15%から18%程度にすぎません。他の先進国、例えばドイツを見てみると60%以上となっており、日本の水準がかなり低いことがわかります。そしてその背景には、各自治体が申請を受け付けない「水際作戦」で、追い返しや窓口対応がおこなわれている実態があります。これは立派な違法行為であるにもかかわらず、横行しているのが現状です。

 受給者に対する、市役所職員の冷たい姿勢が明らかになる出来事がありました。本日の各紙社会面では、受給者の生活支援を担当している小田原市の職員が、「不正受給はクズ」「保護なめんな」といった趣旨の英文がプリントされたジャンバーを所持していたことを報じています。市の会見によると、生活支援課に勤務している33名のうち28名が所持しており、その中の25名はケースワーカーであることも明らかになりました。受給世帯を訪問し、相談に乗るなどする仕事です。 監督する立場にあった福祉健康部長によると「職員の士気を挙げるため、頑張っている自分たちを『なめるな』というほかの職員への誇示だった」と釈明しています。

 憲法が謳っている「健康で文化的な最低限度の生活」をすることができない人を、一時的に支援する制度として誕生したはずだったのが、今では担当職員からの強い蔑みと、不正利用に対する警戒心ばかりが表に出る事態となっています。一億総活躍社会を目指すのであれば、まず、全員が働けるための土台作りをしなくてはなりません。そのためにも生活保護制度に対しての考え方を変える必要が今の日本には必要なのではないでしょうか。

参考記事:
18日付: 朝日新聞朝刊(東京14版)34面(社会)「生活保護「なめんな」市職員の服に」
同日付: 日本経済新聞朝刊(東京14版)34面(社会)「ジャンバーに「不正受給はクズ」」
同日付: 読売新聞朝刊(東京14版)30面(社会)「生活保護受給者に陳謝 「なめんな」ジャンバー」

関連記事:
日本弁護士連合会「Q&A 今、ニッポンの生活保護制度はどうなっているの?」
(http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/publication/booklet/data/seikatuhogo_qa.pdf)
(18日閲覧)