東京五輪で終わらせない

テレビの前で釘付けになっていました。ソフトボール上野由岐子投手の気迫のこもった力投に、感銘を受けた人は筆者だけではないでしょう。北京五輪の決勝トーナメント。2日間で3試合413球を投げぬき、日本を悲願の優勝に導いたその勇姿は今でも心に焼き付いています。

 3日に開かれた国際オリンピック委員会総会で、野球・ソフトボール、空手、スケートボード、スポーツクライミング、サーフィンが東京五輪の追加種目に決定しました。中でも関心があるのは、野球・ソフトボールの復活です。早速、復活への支援に感謝するPVも披露されました。巨人軍・長嶋茂雄終身名誉監督をはじめとして12球団を代表する選手とソフトボール選手が出演した豪華版です。一野球・ソフトボールファンとしては嬉しい限りですが、決して手放しには喜べません。なぜなら、これは開催都市に追加競技や種目の提案権を与える改革計画「五輪アジェンダ2020」に基づく、一回限りの採用だからです。競技団体にとっては、24年大会以降の残留が課題となります。

 そもそもなぜ、野球・ソフトボールは北京五輪を最後に除外の対象となってしまったのでしょうか。その原因の一つに、競技人口の少なさがあります。身一つで競技できる陸上トラック競技や、ボールがあれば始められるサッカーとは異なり、複雑なルールと数々な用具を必要とするため、経済的な負担は小さくありません。

 特にアフリカやアジアの途上国では普及が進んでいませんでした。また、サッカー文化が根付くヨーロッパでも、その影響力は小さいと言われています。復活に向けて両競技団体 は、東南アジアで教室を開いたり、トップチームが欧州の選手と練習をしたりと、地道な取り組みを積み重ねてきました。今回はその努力が結実したと言えるでしょう。

 しかし、これはあくまでもスタートにすぎません。やはり五輪種目に必要な条件は、多くの国、地域、人々に開かれたスポーツである、ということでしょう。さらなる普及に向けて、欧州や発展途上国での普及が不可決です。そのために、例えば海外への人材の派遣や道具の提供などが必要となると思います。最前線にいるプロ選手が先頭に立って道具を寄付したり、発展に向けて支援を募ったりするのもよいかもしれません。

 多くの種をまいた後には、継続的な指導や支援で点を面にする、という戦略も求められます。日本野球機構の熊崎会長は東京五輪での採用決定を受け、「野球界としては世界的普及を成し遂げていく、大きなきっかけになる」と述べました。米大リーグ(MLB)選手の参加問題などまだまだ課題が山積みですが、東京五輪のその先を見据えた今後の試みと、選手の活躍に期待したいと思います。

 

参考記事:4日付け 朝日新聞(東京版)朝刊 17面 野球・ソフト 復活決定へ

         各紙夕刊 東京五輪種目追加関連面