ガザ地区で日常の破壊続く 対立のワケと戦後の行方は?

「ハラル認証を受けていますか?」

先日トルコから来た高校生に東京を案内した折、チョコレートを買って一緒に食べようとしたら、ハラルフードか否かを問われました。一緒に秋葉原を巡ってマンガやゲーム機を見ているときは、日本にもいるような高校生という印象が強かったため、ハラルに該当するか聞かれたことで初めて、彼らがイスラム教徒であることを実感しました。

とはいえ、イスラム教徒と接する機会がほぼなかった筆者に案内役が務まるかという不安も杞憂に終わり、一緒に過ごす中で彼らも自分と変わらない日常を生きているのだと考えるに至りました。

 

近頃のイスラム教にまつわる報道は、イスラエル軍によるパレスチナ自治区ガザへの侵攻一色です。ガザ地区における軋轢は何年も前から存在し、その原因は宗教に起因するものだけではありません。

 

私たちの住む日本からは地理的に遠く離れていても、そこに住んでいる人々は私たちと何ら変わらない人間です。過去に何が起こって今の地上侵攻に至っているのか。

対岸の火事ではなく、私たちと地続きの問題として捉えるべきではないでしょうか。

 

パレスチナを巡る問題では、ユダヤ人が2000年にわたり世界に離散して迫害を受けてきたことから自分たちの国(イスラエル)をつくろうとしてきた歴史と、イスラエルの建国により故郷を追われたパレスチナ人たちの歴史が交錯し、根強く複雑に絡んでいます。

第一次世界大戦の際はイギリスにより「三枚舌外交」(フセイン・マクマホン協定、サイクス・ピコ協定、バルフォア宣言)が展開され、混乱と疑惑を招きました。

【フセイン・マクマホン協定:アラブ人に独立国家を約束、サイクス・ピコ協定:英仏で中東を分割支配、バルフォア宣言:ユダヤ人に国家建設を支持】

 

1947年に国連で「パレスチナ分割決議」が採択されたのちも緊張状態が続き、4度にわたって中東戦争が起こりました。その後は和平プロセスが進められ、93年の「オスロ合意」でパレスチナの暫定自治が認められるとともに、将来的にイスラエルとパレスチナが共存することが目指されました。

2005年にガザ地区からイスラエルが退去したあと、ハマスはガザに学校や医療施設などのインフラを整備することで住民の支持を集めています。しかし、肝心の和平交渉は停滞と混迷の一途をたどり、近年はハマスの攻撃とイスラエルの空爆が繰り返されています。

 

このような状況下において、ここ数十年でイスラエルが最大規模の被害を受けたのがこの10月7日の出来事です。パレスチナ自治区を実効支配するハマスをはじめとするパレスチナ武装勢力が、ガザからイスラエル国内に数千発のロケット弾を一斉に発射しました。

またハマスの1500名規模の戦闘員がイスラエル南部に侵入し、集落や音楽フェスティバルを襲撃。イスラエル軍兵士や外国人を含む市民を殺害・誘拐しました。

同日、イスラエルのネタニヤフ首相は「戦争」であることを宣言し、ガザ地区への空爆による報復を開始するとともに、電気や水などの供給を停止しています。

 

国連の安全保障理事会は18日に緊急会合を開き、人道支援のための一時停戦を求める決議案の採決を行いました。しかし、常任理事国であるアメリカがイスラエルの自衛権に言及していないことを理由に拒否権を行使したため否決されました。

その後もイスラエルを擁護するアメリカ、パレスチナを支持するロシアや中国などが、それぞれの立場に基づき即時停戦を求める決議案を提出していますが、いずれも否決されています。

ようやく11月15日(日本時間16日)の安保理で、戦闘の休止を求める決議が賛成多数で採択されました。ガザ全域で「十分な日数」の「緊急かつ人道的な戦闘の一時休止」を求め、「紛争が子どもたちの身体的・精神的健康に生涯にわたる影響を与えることに深い懸念を表明する」とし、ハマスに拉致された人質の即時解放も明記しています。

 

日本、フランス、中国など12か国が賛成した一方で、アメリカ、イギリス、ロシアの3か国が棄権し、決議の内容に不満を示しています。またイスラエルもハマスに対する軍事作戦を継続する姿勢を表明しているだけに、決議の実効性が懸念視されています。

 

ガザ地区では、ジャーナリストや医療スタッフも攻撃されたり、病院を標的にした攻撃や燃料不足により患者や新生児らが死亡したりするなど、民間の被害が拡大しています。空爆前のガザの様子と比較して、人間の尊厳が奪われていることは明らかでしょう。

国連安保理決議で見られるように各国の利害関係の対立があるにせよ、人命と人間性を守ることは世界全体で取り組むべきことだと考えます。

 

また、日本にとってもニュースやSNS上で見られる被害の姿は、決して他人事とは言えません。イスラエルと日本は離れていますが、経済関係では対日輸入が15.1億ドル、対日輸出が12.3億ドル(2019年)と関係は深まっています。

 

仮に今回の安保理決議によって戦闘が休止されたとしても、対立がすぐになくなることはありえません。さらにガザの復興や統治、避難民の帰属に関する問題が残ります。

双方が起こした不正義が正されるとともに、今後、長期にわたって、こうした理不尽な武力行使がなされないための抑止力のある解決策を望みます。

 

【参考記事】

2023年10月9日付 日本経済新聞2面「ハマスのテロを暴力の連鎖につなげるな(社説)」

2023年10月28日付 読売新聞朝刊8面「基礎からわかるイスラエル・パレスチナ=特集」

2023年11月16日付 読売新聞夕刊1面「安保理 銭湯休止を採択 米英露は危険 人道支援目的に」

2023年11月17日付 日本経済新聞朝刊13面「安保理、ガザ戦闘「一時休止」を決議 イスラエル・ハマス衝突後初 日中仏賛成、米英ロは棄権」

 

【参考資料】

「パレスチナ(Palestine)基礎データ/外務省」

国連安保理 戦闘休止求める決議採択 ガザ地区での軍事衝突後初 | NHK | イスラエル・パレスチナ

パレスチナ問題がわかる ハマスとイスラエル 対立のわけ – クローズアップ現代 取材ノート – NHK みんなでプラス