障害を持つ女性が抱える試練 性的虐待を受ける女性も

前回の記事「知的障害の女性 子育てしたいのに 〜公的な支援が求められる〜」では障害を持つ女性の出産・育児の問題について取り上げました。引き続き、今回は出産後に乳児院に預けられた子供たちやシングルマザーに焦点を当てて考えていきます。

まずは出産後に乳児院に預けられた子供たちについて。

前回の記事でも取り上げましたが、共同通信によると、神奈川県内のグループホーム(GH)で暮らす軽度知的障害の女性(31)が、男児を出産しました。本人は育児を希望したものの、子どもは乳児院に預けるほかありませんでした。

では、乳児院に預けられた子どもたちの今後はどうなってしまうのか?もう1度両親に会えるのだろうか?出産した女性の意思は尊重されないのだろうか?

様々な疑問が湧きあがってきます。

乳児院とは、主に0~2歳頃までの低年齢の子どもたちが入り、すべての時間をここで過ごします。入所した子どもたちは2歳頃を過ぎると児童養護施設に移るのが一般的です。ただ、保護者の元へ戻ったり、里親に引き取られたりするケースも見られます。

厚生労働省が実施している児童養護施設入所等調査によると、1997年から2018年の間、乳児院の在籍人数に大きな変動はなく、平均2700人ほどが入所しています。社会の環境が変わっていない現状が浮かび上がります。また、施設に入れる理由では「母の精神疾患等」が多くを占めています。冒頭に記載した記事の女性のような母の知的障害が理由で施設に入れたという項目は見当たりません。

子ども家庭庁(旧厚生労働省子ども家庭局)に問い合わせたところ、知的障害を持つ母親についてはこの項目に入っている場合もあり、また「その他」とされている可能性もあるとの回答がありました。さらに知的障害の女性が乳児と離れ精神疾患を引き起こすというケースも考えられます。十分な子育てが難しく、乳児院に頼らざるを得ないことが推察されます。一方で、子どもの育児を希望する母親も多く、55.3%と半数以上の家族が乳児院の子どもの元へ面会に来るというデータもありました。

もう一つ、気になる点としては、障害を持つ女性ではシングルマザーのケースが多いことです。厚労省の調べによると、乳児院に預ける際の保護者状況として「実父母有り」が52.8%を占めるものの、「実母のみ」も41.9%います。

その原因として考えられるのが、障害者女性に対する性加害です。17年に福岡県で施設の男性が知的障害のある女性に性的虐待をしていた事件があったように、障害を持つ女性が被害に遭うケースが多くあります。「性暴力被害者支援センター・ふくおか」によると、21年度に対面で受けた相談のうち2割強が、発達障害や知的障害がある人からだったそうです。望まない妊娠により出産することになり、子どもを乳児院に預けることになってしまっているのではないでしょうか。それは彼女たちの責任とは言えません。

障害者女性も正しい性教育を受けられる環境を整えること、そして立場を利用した障害者女性に対する加害行為を決して許さない意識を、社会全体がより強く持つことが求められます。

子どもたちの今後についてはどうでしょうか。厚労省によると、35.5%は現在の乳児院で養育され続ける見通しです。25.2%は保護者のもとへ戻る見通しがあるそうですが、このままだと乳児院生活の長期化が進んでしまいます。

親子が一緒に暮らせる解決策の1つとして考えたいのが「母子生活支援施設」です。ここでは、子育て支援を進めながら母子の生活と自立を後押しします。利用者状況を見ると、入居者の25%は障害を持つ女性です。しかし、年々施設や職員の数が減少する傾向にあります。障害を持つ女性の出産の受け皿として、この施設の充実が今後の課題になるでしょう。

障害があるからといって育児を諦めるという選択を強いられるのでなく、子どもと一緒に成長していくという道筋を用意する必要があるのではないでしょうか。

 

参考記事:

・朝日新聞デジタル、10月7日付、「「知的障害の影響を認識し、性的行為」 元施設長らに賠償命じる判決」

・あなたの静岡新聞、10月2日付、「知的障害者の育児 「当事者の希望くんで」 財政措置や仕組み作りを【大型サイド】」

参考文献:

・厚生労働省、児童養護施設入所児童等調査の概要(平成30年2月1日現在)、令和2年1月、厚生労働省子ども家庭局 厚生労働省社会擁護局障害保健福祉部

・厚生労働省、第3回ひとり親家庭への支援施策の在り方に関する専門委員会 母子生活支援施設における 支援について、平成25年6月25日、全国母子生活支援施設協議会

・厚生労働省、母子生活支援施設の現状と課題、社会福祉法人 全国社会福祉協議会 全国母子生活支援施設協議会