知的障害の女性 子育てしたいのに 〜公的な支援が求められる〜

今月1日、神奈川県内のグループホーム(GH)で暮らす軽度知的障害の女性(31)が男児を出産し、育児を希望したものの、乳児院に預けざるを得なくなっていたことが分かりました。共同通信の配信記事が信濃毎日新聞や東京新聞などに掲載されました。

育てたい思いがあるのにもかかわらず、何らかの障害を理由に出産や育児ができない女性がいるという冷酷な現実があります。障害だから出産や育児を諦めなければいけないのでしょうか。

まず、グループホーム(GH)の現状について。調べてみると、想像していた老人ホームのような施設ではなく、マンションのような外観をしていました。現行の障害者を対象とするグループホームは共同生活を営むための住居で、相談や食事、入浴など日常生活の支援を行う場です。

GHは制度上、原則18歳以上の障害者を対象にしており、居室はワンルーム。そこでは結婚や出産、子育てを受け入れる態勢はありません。他の入居者からの許可やGHによる特別な支援が受けられない限り、生まれてきた子供たちは乳児院へ送られてしまうのです。

人権侵害になりかねない問題が起こったこともあります。昨年12月、北海道江差町の社会福祉法人「あすなろ福祉会」が運営する知的障害施設で、入居するカップルが結婚や同居を希望した場合、不妊処置を提示していたことが明るみになりました。GHは入居者の支援しかできず子育て支援は困難なことから、強制ではなく提案したまでだと、法人の理事長はあすなろ福祉会が開いた記者会見で答えています。

入居者自身が不妊処置を受けることを認めたとしても、障害者だから結婚や同居を望んだら不妊処置を提案されるのでは、人としての生活に厳しい制約をかけられているのと変わらない。そう筆者は考えます。どんな立場の人でも自由な選択ができる世の中が目指されます。

障害を持つ女性は結婚・出産・子育てについてどのように考えているのでしょうか。今年の4月24日に放送されたNHKのハートネットTVに出演した友佳さん(31)が語っています。

「骨形成不全症」という難病を抱える友佳さんは出産を控えている時期、家族からの反対や出産後の公的支援への懸念など多くの不安を抱えていました。夫の良貴さんが育児休暇を取れば、友佳さんへのヘルパーの介助が減らされてしまう恐れがあったのです。心配はありましたが、その後、無事出産しました。友佳さんには支えてくれる夫の存在がありましたが、GHに住む出産女性はシングルマザーの場合が少なくありません。支援が必要なシングルマザーが1人で子育てすることはとても困難なことです。望まない妊娠も避けなければいけません。

GHでの子育て支援については課題が山積みで、公的な支援が求められます。神奈川県茅ヶ崎市にある知的障害のある人たちのGHでは子供を育てている夫婦が2組います。そこでは、知的障害者の人にとって難しいお金の管理や小学校で使う持ち物の名前の書き方での助言など、幅広い支援が受けられます。さらに地元自治体の子育て担当者からの支援もあります。ただ、国の制度ではなく、子育てをしたい障害を持つ女性の全てが支援を受けられるようにするためには、新たな仕組みを整えることが求められます。

障害を持つ子供については目を向けられることが多いですが、障害を持つ親も抱える問題は多く、私たちは向き合わなければなりません。今後、障害を持ちつつも結婚、出産、子育てを望む人の声も届けていきたいと考えています。

 

参考記事:

6月21日付 朝日新聞デジタル 「13人が不妊処置、強制の事実は確認できず 北海道の知的障害者施設」

2022年12月19日付 朝日新聞デジタル 「知的障害者カップルの結婚に不妊処置提案、8組応じる 北海道の施設」

2021年11月23日付 読売新聞オンライン 「知的障害の女性 妊娠明かせず、性教育難しく…自宅出産乳児遺体遺棄事件、佐賀」

10月2日付 信濃毎日新聞・朝刊・1面 「知的障害女性育児かなわず」

7月24日 NHK 「障害のある女性の妊娠と出産 ~自分の意思で選択するために必要な支援とは~」