「ライドシェア」議論本格化―現状と課題は

「ライドシェア」の議論が本格化しています。9月に菅義偉前首相が仙台市で開かれた講演会で、「先送りできない課題」と表明しました。これを受けて、岸田文雄首相も臨時国会でライドシェア解禁の検討に入るとしています。

そもそもライドシェアとは何なのか。なぜいま議論が高まっているのか。現状と課題や対策を探りました。

 

ライドシェアとは?

元々は、「相乗り」を意味する言葉です。本来は一つの目的地に行きたい人が集まり、燃料代などを折半することで、一人当たりの負担を減らすものです。

今回議論となっているのは、一般のドライバーが自分の車で客を送迎するものです。輸送ビジネスを考えているドライバーと目的地へ辿り着きたい乗客をアプリでマッチングさせることで効率のよい移動が実現できます。

すでに欧米などでは「ウーバー」というアプリが普及しています。日本では、乗客を乗せて移動するためには専用の免許(二種免許)が必要ですし、タクシーとしての指定を受ける必要もあります。その分、一般ドライバーには開業のハードルが高くなっています。

 

なぜいま「ライドシェア」なのか

菅前首相が言及した背景には、深刻なタクシー不足があります。今年5月、政府は新型コロナウイルスを感染症法上の5類とし、いわゆる水際対策を緩和しました。これにより、海外からの観光客が急増しタクシー不足に拍車がかかりました。

運転手不足も深刻です。全国ハイヤー・タクシー連合会によると、2019年には29万人いた運転手が23年には22万人と4年間で20%減少しています。背景にあるのは、コロナウイルスによる収入の減少です。しかも、平均年齢は58.3歳と高齢化が進んでいます。今後もタクシー不足は加速すると思われ、対策が急がれます。

 

先進的な取り組みも

福島県浪江町ではライドシェアの実証実験が進んでいます。「なみえスマートモビリティ」と呼ばれ、アプリ上から巡回する乗合バスを呼び出すことができます。著者が今夏に訪れた際にも運行していました。

同町では、東日本大震災により人口が減少している中でタクシー不足への対応は大きな課題です。観光客を呼び込む上でも移動の問題を解消しなければなりません。担当者に話を聞いたところ、車を運転できない小学生などが塾や児童館などへ移動する際の支援もしているとのことでした。

 

ライドシェアへの懸念

ライドシェアには待望論がある一方で、安全性への懸念など導入に伴う問題点も指摘されています。タクシー運転手については、安全な運行のために様々な取り組みがあります。例えば、自動車の点検や健康チェックなどは法律で義務付けられています。

一般ドライバーの場合、そうした安全への意識が比較的弱いとの懸念があります。連れ去りなど犯罪へ利用されることも危惧されています。

 

人口減少社会での移動のあり方とは

日本では人口減少が避けられず、これまでのシステムでは対応できない難問が山積しています。タクシーもその一つで、担い手不足は深刻です。また、地方で利用者が減少し、タクシー会社が倒産すれば、地域の足が失われた「空白地帯」が発生します。

昨今では、地方鉄道の経営悪化など地域交通を巡る問題は深刻です。問題を直視し、クシーのみならず人口減少社会での移動手段をどうするべきなのか、全体を俯瞰した議論が求められます。

 

22日付 日経新聞朝刊 総合3面 「ライドシェアにみる落日」

17日付 日経新聞朝刊 総合4面「首相、ライドシェア検討表明へ 臨時国会の演説で」

19日付 読売新聞朝刊 政治面 「ライドシェア導入検討 表明へ」

2日付 読売新聞朝刊 4面「タクシー不足 解消へ一石 菅氏旗振り役 ライドシェア導入議論」

20日付 朝日新聞朝刊 1面「日本版ライドシェア タクシー不足解消へ」

18日付 総合4面「ライドシェア導入検討表明へ」