ジャニーズ事務所「SMILE-UP.」に社名変更 性暴力問題を考え直すきっかけに

今月17日、ジャニーズ事務所は社名を「SMILE-UP.(スマイルアップ)」に変更しました。さらに、18日には所属する人気グループ「ジャニーズWEST」がグループ名を「WEST.」に変えることを発表しました。ジャニー喜多川元社長(2019年死去)による性加害問題を受けた措置で、喜多川氏の名前を外したうえで被害者への補償に専念するためとされます。

生まれる前からあったジャニーズ事務所。熱狂的なファンではなかったものの、お茶の間に出演するタレントが所属する、慣れ親しんできた存在です。それが無くなるなんて、数か月前には想像もできませんでした。

 

一連の性加害問題について、SMILE-UP.(旧ジャニーズ)のアイドルを応援している友人にいくつか質問しました。

―社名変更について率直にどう思うか。

「被害者からしてみれば名前を変更するべきだと思う。けれど、メディアは報道の中で『ジャニーズ』という言葉を連呼している。せっかく社名を変更したのに、何度も特定の言葉を繰り返すのはいかがなものか」

―「ジャニーズである推しが好きだった」という声を耳にするが、実際にはどうか。

「私はそうでもない。人による問題だと思う。しかし『ジャニーズ』というブランド力は非常に大きいため、今回の件を原因で担降り(応援することをやめること)する人もいると思う」

友人への質問で初めて、社名変更後もメディアが「ジャニーズ」として報じていることへの違和感に気づきました。問題を継続して報じ、被害者救済が滞らないよう監視することはジャーナリズムの重要な役割です。しかし、10月の会見で藤島ジュリー景子前社長が「ジャニー喜多川の痕跡をこの世から一切なくしたいと思う」とつづる手紙を寄せたように、被害者が苦しむ要素をなくすということも必要です。被害者にとっては見たくもない、聞きたくもない言葉を使わざるを得ないことに、もどかしさを感じます。

 

これまで性暴力や性的マイノリティについての記事を書いてきた筆者としては、性暴力を軽視した社会構造への不信感が最も残ります。「魂の殺人」と言われるように、その被害は消えません。突然被害の光景がフラッシュバックしたり、他人への不信感が増大したり、性に寛容になりすぎたり。それなのにジャニーズ性加害問題を取り上げなかったのは、社会が性暴力を軽く見ていたからなのかもしれません。申告し、補償を求めた被害者だけで325人もいます。この背後には声を挙げられない被害者が大勢いるはずです。ここまで被害が広がったのは、事件の直後に警察などに被害を申告できなかったから。性被害を訴えられる環境が整っていなかったからです。

男性や子どもの性被害での届け出はハードルが高いのが現状です。性暴力をなくすことが一番の目標ですが、そのためにも訴え出ることができる環境を整えていかなければなりません。性暴力は悪であることを共通の認識とすること。嫌なことをされたと子どもが言いやすい環境をつくること。これらが私たちの課題でしょう。

ジャニーズ性加害問題をきっかけに、過去の被害者の救済と未来の被害者発生防止、どちらにも目を向けていかなければなりません。

 

 

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参考記事

・18日付 読売新聞オンライン 人気グループ「ジャニーズWEST」、グループ名を「WEST.」に変更 : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)

・18日付 朝日新聞(西部13版)29面「ジャニーズ消滅」

・17日付 日経新聞 ジャニーズ事務所、「SMILE-UP.(スマイルアップ)」に社名変更 – 日本経済新聞 (nikkei.com)

・17日付 朝日新聞デジタル 消えたジャニーズ 「SMILE-UP.」に社名変更 サイトも移転:朝日新聞デジタル (asahi.com)

・3月1日付 朝日新聞デジタル 友に打ち明けた少年時代の性被害 返ってきた言葉に心をえぐられた

 

参考資料

・16日付 朝日新聞ポッドキャスト 朝日新聞 ニュースの現場から:Apple Podcast内のジャニー氏の性加害問題 取材続ける記者と考えた「私たちの教訓」 #1295