「おつかれさま」はまだ早い、役目を終えた建物が待つ第二の人生

“少子化を背景に公立学校の廃校が増え続けており、自治体は活用法に頭を悩ませている。近年は、民間事業者とのマッチングの強化によって民間施設としての利用に活路を見いだす動きもある。文部科学省の調査によると、2002~20年度で廃校は8580校。毎年400校前後が廃校になっている。現存する7398校のうち、活用されているのは74%で、活用されず用途も決まっていないものも19%ある。”(2023年6月1日読売新聞「公立校 年400校廃校 民間とマッチング強化」)

少子高齢化が進む中で、役目を終える学校が増えています。そんな中、廃校活用の動きは全国で進行中。教育施設や公共施設、商業施設などに生まれ変わる可能性を持つ廃校跡地は、地域振興の起爆剤として期待されているのです。

廃校の活用は自治体にとって大きなメリットがあります。管理コストの削減や、地方税収入の増加、雇用の創出や地域経済への波及効果など期待できる効果は計り知れません。メリットがあるのは自治体だけではありません。民間企業は、新事業にかかる初期コストを削減可能。話題性による知名度の向上も期待できます。

役目を終えた施設を十分に再利用するには、地域の特性から分析されたニーズや地域住民の意見を考慮することが重要です。私の住む京都市にある「京都国際マンガミュージアム」は龍池小学校の跡地に開設。日本文化の集積地である京都らしい活用法です。京都の繁華街、四条河原町にあった立誠小学校はホテルに変貌。観光都市である京都にとって宿泊施設への需要は高く、地域の特性が十分に勘案された活用法です。内部には、地域住民の要望によって児童が礼儀作法や道徳を習った「自彊室」が残されており、宿泊者がくつろぐスペースになっています。学校だった面影は廃校になった今も残っているのです。

施設の再利用は、廃校に限った話ではありません。現在、京都では京町屋の再利用が進んでいます。平成28年度に京都市が実施した「京町家まちづくり調査に係る追跡調査」では、平成20・21年度には4万7735軒あった京町屋は、4万146軒に減少していることが確認されています。年間800軒も減少しているということは、計算上1日に2軒ずつの町屋が消えていることになります。

京都を支えてきた京町屋が年々減少する中、京都市は京町屋所有者と京町屋継承・活用したい人をマッチングする事業を開始。これによって、京町屋は新たな活路が見出されています。住宅としてだけでなく、オフィスやカフェ、福祉施設や学校に用途を変えて京都の人々の暮らしに密着し続けています。市はリノベーションへの支援も行っているため、長期的な活用が期待できます。役割を変えて形を残す京町屋の姿は、廃校の活用事業に近い部分があります。

今ある施設を活用することは、地域の生活の姿を未来に残すことに繋がります。どんな地域にも、その土地ならではの特性があるはずです。これまで地域にとって当たり前の存在だったものが、新たな価値を生み出す可能性を秘めているかもしれません。「おつかれさま」を告げるのはまだ早い。役目を終えた建物に、「第二の人生」を与えることで地域社会は持続し、地域にまだ見ぬ可能性をもたらしてくれるかもしれません。

参考記事
2023年6月1日・読売新聞
公立校 年400廃校…活用 民間とマッチング強化 : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)

2021年10月29日・朝日新聞
京都の廃校、華麗なる復活 ホテルや博物館に生まれ変わる :朝日新聞デジタル (asahi.com)

参考文献
7.京町家を活用したい –京町家を未来へ (kyoto.lg.jp)