【特集】就職だけが道じゃない!放送作家のお仕事に迫る

あと1か月で4年間通った大学を卒業します。大学4年生の就職内定率が84.4%に達したと先月のニュースでも目にしました。筆者の周りでも、大学院進学や就職浪人をする者を除けば、ほとんどが就職します。そんな中、あえて就職をせずに夢に向かって頑張る友人がいます。この春、大学を卒業する浅井しおりさん(22)です。彼女とはフリーペーパーを作成する学生団体で知り合いました。

放送作家との出会いは大学3年の秋

浅井さんは卒業したら放送作家の道に進みます。テレビやラジオなどにおける「構成」の役割を専門的に担う作家です。大学3年の秋、大学で面接対策の講座を受けた帰り、芸人として活躍する「Aマッソ」さんの単独ライブを見に行ったことがきっかけだと話します。3分間の幕間に、ショートコントやシュールな映像が流れたことが印象に残ったそうです。エンドロールを通して、その幕間の構成は放送作家が考えることを知った浅井さん。「スーツを着てなんとなく就活をしている自分に衝撃が走った」と言います。元々ものづくりに興味があったことから、放送作家の仕事にどんどん興味を持つようになりました。

広告代理店の内定辞退…両親の反対を押し切り養成スクールへ

「仕事をもらうためにはコネクションが大事」「養成スクールで学びながら、人脈をつくるのも有効」。ネットにはそんな情報が溢れます。ワタナベプロダクションに作家企画専攻の養成スクールがあることを知った浅井さんは、3年生の終わりに説明会へ参加。入塾金は48万円という大金です。不安も大きく、卒業生で活躍する数人の放送作家にTwitterでアポイントをとり、話を聞きに行ったほどです。

そうしているうちに「ここで学びたい」と気持ちが高まり、早速入塾手続きに。ある日、勇気を出して願書を出したことを両親に打ち明けました。サラリーマンの家系だったこともあり両親は大反対。しかし、予想の内という浅井さんは、既にアルバイト代で貯めたお金で入塾金を払っていたのです。説得の末、最後は「勝手にしろ」と諦めた様子だったそうです。3年生ながら既に某広告代理店に内定も決まっていましたが、意思は強く、内定も辞退しました。今でも両親は賛成していないそうですが、「もう決めたんだから頑張れ」と最近では励ましの言葉もあったそうです。

TwitterのDMを駆使して人脈づくり

スクールでは毎週日曜日、9時から14時半まで授業をしています。Youtubeのサムネイルの作り方やロケの台本の書き方などを学びながら、時に企画を持ち寄って発表し合うこともあるそうです。所謂「ドッキリ番組」は、仕掛けに出くわすゲストの反応を何パターンも想定する必要があるため、難易度が高いと言います。昨春に入塾した同級生は24人。驚いたのは、それぞれのバックグラウンドです。大学生は浅井さんを含め3人だけ。卒業したタイミングで入塾する者や、医者や営業職として働く社会人まで多岐に渡ります。夢を追いかけるのに年齢や経歴は関係がないのだと思い知らされました。

ただ、養成スクールはあくまで学びの場。仕事があてがわれる訳ではないため、浅井さんは自ら仕事を求めてTwitterを駆使します。仕事を手伝ってくれるスタッフを募集する放送作家を見つけては、DM(ダイレクトメッセージ)機能でコンタクトをとるそうです。「放送作家を目指しています」「お手伝いさせてください」などなど。生の現場を体感したり、実際にあるyoutubeのお手伝いをしたりしています。「人脈や情報収集が大切」と言われる就活と似ているようにも思えました。

1年で3冊に及んだ歴代のネタ帳(提供写真)

一から企画したライブ、客席は満席に

7日、筆者は「新宿ハイジアV1」というライブ会場に足を運びました。浅井さんが一から練り上げたお笑いライブを見るためです。70人を収容できる客席はほぼ満席状態。スーツ姿を着たサラリーマンまでいます。ライブでは、出演者のキャスティングもコンセプトも浅井さんを中心に決められます。また、キャスティングについての意思表示の手段はTwitterだったそうです。

実際のパンフレット

出演者の中には、日本テレビが主催するテレビ番組「女芸人No.1決定戦 THE W」に出場を果たした芸人「にぼしいわし」さんもいます。出場が決まる前からオファーをしていた浅井さんの先見の目には驚かされました。ライブは11月の半ばから企画を練り始めたそうです。卒業論文の時期と重なり、準備期間は気が気じゃなかったと振り返ります。それでも、ライブ後に演者や観客が「面白かった、楽しかった」と言ってくれたことが何より嬉しい瞬間だと話してくれました。筆者も久々に心から笑うことができました。「ライブはなかなか資金繰りが厳しくて、出演者がエントリー費を払ったり、スタッフがボランティア同然で働いたり…そういう悪しきシステムを払拭して、関わる人を笑顔にできれば嬉しい」とも訴えます。

今後の不安と未来に馳せる思い

幼いころからテレビが大好きな浅井さん。まずは番組企画を通して深夜のバラエティ番組を担当し、いずれはお世話になった人たちが何気なく目にする番組に携わるのが夢だそうです。一方、不安や焦りもつきものです。大成するかは実力次第。金銭的にも不安定なため、アルバイトは卒業後も続けると言います。社会人を経験しないことへの後ろめたさもあるそうです。そういう意味でも、「就職活動は良い社会勉強になった」と前向きに捉えます。「アグレッシブな自分にとって、今の環境が一番合っている」。最後は、好きなことを仕事にする浅井さんの信念が見られました。

「いつかQuickJapanで連載を持ちたい」と語ってくれた浅井さん(14日筆者撮影)

あとがき

よく「やりたいことが見つからない」という就活生の言葉を耳にします。彼ら彼女たちは「大学を卒業したら就職」という決まりきったレールにとらわれているように思えます。もっと柔軟に自分が抱える「好き」な気持ちに正直になることも時には大切かもしれません。一方で、好きなことをあえて仕事にしない社会人がいることも確かです。私はこの春就職します。憧れの職に就ける喜びもありますが、仕事が嫌いになってしまったらどうしようという不安を感じるのも事実です。そんな時は、浅井さんのように貪欲に頑張ろうと思います。努力が報われるかは分かりませんが、満足のいくまで自分と向き合おう、そう取材を通して考えました。

特集記事 編集部ブログ