沖縄はなぜ幸福度1位なのか インタビューで見えた多様な幸福のあり方

沖縄と聞くと何を思い浮かべるでしょうか。綺麗なビーチや本州などでは見られない樹林、サンゴ礁といった自然や泡盛やソーキそばなどの食文化、美ら海水族館や国際通りに代表される観光スポットなど、旅行先として魅力的な場所といった印象が強いでしょう。また温暖な気候や人付き合いの濃厚さといったイメージもあり移住したい都道府県ランキングでは毎回上位に入ります。沖縄県民も同様に人生に対して幸福感を覚える割合が高いようです。ブランド総合研究所が毎年行う「地域の持続性調査2022」では幸福度や愛着度などで1位となっています。

沖縄の海 筆者友人提供

一方で、子供の相対的貧困率が全国平均の2倍で、基地問題も解決していないなどネガティブな側面も存在します。東京に住む身としては経済的には貧しく、オスプレイの事故や米兵の暴行などが伝えられる現状を考えると、幸福度1位と言うのには疑問をいだいてしまいます。なぜ沖縄の幸福度は高いのでしょうか。

仮説としてあげられそうなのは、先に述べた豊かな自然、人間関係、沖縄独自の文化といったところでしょうか。考えていてもわからないので、昨年11月から12月にかけ沖縄に居住している20-50歳の男女5人にインタビューしてみました。また、沖縄と言っても本島と八重山諸島など離島では生活や文化が大きく異なるため、離島出身の方にもお話を伺いました。

まず率直に幸福度が他県よりも高いと実感するか質問しました。すべての人が抜きん出て高いとは思わないが低いとも感じないとしています。本州に住んだ経験のある方も、移り住んだ際に沖縄より不幸せになったと感じたことはなかったようです。ただ、5人中4人が他県の人から「沖縄っていいよね!」と言われることで出身地に誇りを持つことができ、後付けで幸福を感じるのかもしれないと回答しました。

次に、自然環境について質問すると、すべての人が地元の自然に誇りを持っていました。転勤などで首都圏に住んだときは自然ロスから、毎週末海や山を見に遠出したという人もいます。ただ、大切にしているからこそ観光地化に向けて開発が進むことに寂しさを感じる人もいました。手つかずの自然こそが偉大なのであり、人の手で整備された自然に価値はないということです。

また、取材をしていて自然環境への意識の高さにも驚きました。本島出身で埼玉の大学に通う女性は、学校では強制的にビーチクリーンに参加させられたそうです。当人も友人たちも始めのうちはやる気が出ず、いやいやだったらしいのですが、自分たちの手できれいになっていくビーチに感動し、清掃活動に精を出すようになったのだとか。自分たちの自然を自分たちの手で守っていくというのは郷土愛にも繋がりますし、ひいては幸福感にもつながるでしょう。

また人間関係についても好意的な意見が多くありました。これは沖縄に限らず「田舎あるある」でしょうが、ご近所付き合いによって家の周りに知らない人はいない状態です。学校からの帰り道に野菜をもらうといったことも珍しくありません。また、年に何回もあるお祭りも近所の結束を強めています。八重山諸島の小浜島では盆や結願祭、種子取祭といった芸能が国の無形民俗文化財に登録されていますが、こうしたお祭りは地域総出で準備します。踊りは半ば強制的に参加させられるのですが、これに向けての練習は1ヶ月ほどかかります。否が応でもご近所さんとの関わりは深くなります。また、親戚づきあいも県外と比べて密接で、お盆の時期には線香を立てに20~30軒を回ります。親戚はほとんど近場に住んでいるため、こうした行事でなくとも顔を合わせる機会は多くあります。身内が近くに大勢いるというのは安心感があるでしょう。一方で、人付き合いが苦手な人は面倒に感じ、エスカレートすると島を出る理由にもなりえます。取材した人の中にもドライな人付き合いを求め、本当に地元を離れたことのある人もいました。

次に多くの人から挙げられたのは、戦争体験に触れる機会が多く、それを現在と比較した結果というものです。第二次世界大戦の終了間近に激しい地上戦の舞台となりました。その記憶を継承するために毎年6月には多くの学校で平和教育が実施され、戦争体験者から話を聞きます。学校の図書館に戦争関連の書籍が多くあり、戦争の歴史に触れる環境になっています。

また、祖父母から戦争体験を聞くことも多くあるそうです。現在の大学生より上の世代にとっては、祖父母は物心ついてから戦争を経験した生き証人です。普段接している身近な人から生々しい話を聞くことで、現状がいかに幸せかを感じるわけです。

取材を通し、他県による地元の評価、豊かな自然の存在、先人の戦争体験を踏まえた現状が沖縄の幸福度を高める要因だと感じました。その他に、沖縄の独特の帰属意識も挙げられるでしょう。戦前、海外に移住した人たちが5年に一度に帰ってくるイベントがあり、毎回2000人もの沖縄出身者やその子孫が参加するそうです。また、ボリビアには移住者が「オキナワ」という街を作り、本来の琉球文化を継承しているそうです。先祖が沖縄出身というだけなのにここまで愛着を抱かせる何かがあるということでしょう。

また、一口に沖縄と言っても本島と離島でも人間関係や文化、教育環境に大きな違いがあり、それが幸福感につながっている側面もあるようです。例えば、先に触れた小浜島では島内には中学校までしかなく、卒業すると必ず島外に出ます。若いうちからおのずと愛郷意識が芽生え、いつかは島に戻り貢献したいと考える人が多いようです。それが自らの到達目標となり幸福へと繋がります。

米国の心理学者マーティン・セリグマンのPERMAモデルによると人々が幸福を感じるには大きく5つの要素が重要とされています。①嬉しいや面白いといったポジティブ感情、②物事への積極的な関与、③他者との良好な関係、④人生の意味や意義の自覚、⑤何らかの目標達成、です。これを考えると、取材相手が抱く幸福度1位の理由は学術的にも整合性があります。

Seligman PERMAモデル

貧困率の高さに基地問題と、外から見ると沖縄は問題も少なくないように感じます。しかし、そこに住む人の意識はその逆でした。いい大学に入っていい企業に就職し、高い給料をもらい大きな家や高級車を買う。資本主義的な文脈での幸福とはそういったものでしょう。しかし、それを追求するあまり大切な人と疎遠になったり、自らに過度なストレスを与えて体を壊してしまったりして、幸せから遠ざかってしまうこともあります。

幸福とはより複雑で十人十色です。自らのQOLを高めるためにも、沖縄を知ることは、何が幸福につながるのか、一歩立ち止まり世界を見ることにつながります。

 

参考資料

NHK NEWS WEB 沖縄県は幸福度などが全国1位 「地域の持続性調査2022」

https://www3.nhk.or.jp/lnews/okinawa/20220822/5090019579.html

 

マーティン・セリグマン『ポジティブ心理学の挑戦 “幸福”から“持続的幸福”へ』