バンカラ最後の砦、男子学生寮和敬塾に迫る!!

早稲田大学早稲田キャンパスから北に5分程歩くと、木々に囲まれた旧細川邸があります。文京区目白台という都心の一等地です。邸内には「和敬塾」という男子学生寮が存在します。かつては村上春樹も在籍しました。7千坪の広大な敷地内には早稲田や明治など首都圏の様々な大学に通う学生が500人いて、古き良きバンカラな青春を謳歌しています。イギリスのオックスフォードやケンブリッジを参考に設計された和敬塾には、東西南北4つの寮があり、各寮が独自の文化を持っています。ハリーポッターを想像するとわかりやすいかもしれません。

和敬塾正門 筆者撮影

一歩寮内に足を踏み入れると、「こんにちは!」「失礼します!」といった声が寮のいたるところから聞こえてきます。和敬塾内は上下関係が明確で、特に挨拶というものを大切にしています。高学年の学生が通ると、後輩学生は挨拶しなければなりません。昨今ではあまり見ることのない光景ではないでしょう。「今どきの若者」が嫌いそうな昭和的文化が色濃いこの寮を、若者は何を思い選んだのでしょう。和敬塾東寮元前期委員長で現大将(体育祭における代表)の森翔太郎さん(明治大学・4年)、中井平蔵さん(早稲田大学・2年)、関口智大さん(慶應義塾大学・2年)、カラニボンニンさん(早稲田大学・2年)からお話を伺いました。

取材に協力してくれた皆さん(左から関口さん、中井さん、森さん、カラニボンニンさん)

後ろにある建物は東京都指定の重要文化財(旧細川公爵邸) 筆者撮影

カラニボンニンさんはフランスからの留学生で、ほか三人は大学進学の際に上京しました。日本人3人があえて和敬塾を選んだ理由は、両親からのすすめでした。村上春樹が在籍していたことが示す通り、和敬塾は1955年に設立されて以来長い歴史を有しています。特に50代には馴染み深い存在であるようで、寮生の多くは彼らのように親からのすすめで入寮したといいます。

上京する際、単身で心細かったものの、塾内の濃密な人間関係から寂しさなど覚えることはありませんでした。ただ、普段厳しい先輩たちからの助言は的を射ているものが多く、しっかりと自分のことを見て、考えてくれているのだと日々実感するそうです。親元から離れると他人から真剣に叱られる機会は少ないと思います。真摯に向き合ってくれる人が必ずいることも魅力なのだと思います。

体育祭の様子

森さん提供

また、フランスからの留学生であるカラニボンニンさんは早稲田大学のパンフレットでの紹介を見て入寮したそうです。日本人の友人を作り、敬語など日常で使う日本語を完全にマスターしたい彼にとっては理想的な場所であったそうです。ただ、はじめの頃、日本流の上下関係にカルチャーショックを受けました。しかし、現在ではそれに慣れ生活を楽しんでいるそうです。

毎年5月に行われる山手線ハイキング

山手線を一周歩く 森さん提供

彼らが上下関係を大切にする背景には、和敬塾の哲学があります。和敬塾は元々「社会人としての知性と徳性を備えた人材」の育成を目的に設立されました。今後日本の未来を担っていく学生に必要な知性や心の豊かさを育成します。森さんは、和敬塾生は紳士であれと職員の方から言われたことが度々あるといいます。紳士の精神といえば「ノブレス・オブリージュ」が挙げられます。高い権力を持つ人間は、それ相応の義務を有するという考え方です。実際に和敬塾での生活内において上級生たちは寮内全体のことを考え、学生自治組織の各寮の執行部において全員の幸せをいかに実現するかを軸に寮全体を運営しています。これは一種の「ノブレス・オブリージュ」体験といえます。この他にも上級生は下級生から敬意を示される代わりにそれ相応の対価を払う必要があります。例えば飲食費はすべて上級生が出さなければいけません。

年に二回行われる総会の様子

森さん提供

こうして培われた紳士としての姿勢は社会に出たあとで生きてきます。OBには政財界で活躍する人が多くおり、名実ともに現在の日本を牽引する存在となっています。こうした方々が人の上に立つに足る人物となれたのには、塾生活の体験があるのだと思います。

年に数回行われる講演会には歴代総理大臣をはじめ多くの著名人が来る

写真は湯川秀樹のサイン 筆者撮影

和敬塾は伝統ある男子寮であるため、しばしば画一的な人間が生産されるのではないかと考えられがちです。しかし、実際に話してみるとそこで生活する学生たちは強烈に個性的でした。そこにはひとりひとりの価値観を尊重するという考え方が根付いているのだと思います。これから大学受験は本番を迎えます。筆者は香川県出身で現在東京のマンションで一人暮らしをしています。一人暮らしは気楽ですが時々寂しくもなります。上京前にこの寮を知っていたら、入寮を検討したかもしれません。地方出身で首都圏の大学への進学を希望する受験生は選択肢の一つとして和敬塾を考えてみてはいかがでしょうか。他には無い学生生活を送れるのは間違いありません。

 

参考記事

読売新聞オンライン 「大学入学共通テスト、コロナ特例の救済策を来春は行わず」

https://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/kyoiku/news/20221129-OYT1T50146/

 

和敬塾ホームページ

https://www.wakei.org/

和敬塾東寮公式ブログ

http://wakeijukueast.blogspot.com/?m=1

和敬塾東寮公式インスタグラム

https://www.instagram.com/wakeieast2021/