21世紀の図書館像

図書館にどのようなイメージを抱いていますか。本が置いてある場所。無料で本が借りれる場所。少し受動的な存在として語られることが少なくありません。

皆が一度はお世話になったことがある身近な施設。そんな図書館も、大きな変化の時代を迎えています。近年、アメリカの図書館がユニークな取り組みを始め、社会に少しずつインパクトを与えているのです。

アメリカの「博物館・図書館サービス機構」は、2016年に「地域触発構想」を発表しました。以前までのオーソドックスな情報提供の役割に加えて、「地域の課題や需要を自ら掘り起こし、解決を目指す」視点が新しく加わることになります。提携先はNPO団体、大学など多岐にわたり、地域の潜在ニーズの掘り起こしを目指します。

例えば、メリーランド州ボルチモア市にあるイーノック・プラット公共図書館では、メリーランド大学の社会福祉学部と提携しています。主な取り組みは、ソーシャルワーカーの卵である学部生を図書館に配置することです。図書館には、失業者、貧困家庭の子供、精神疾患のある人など市の福祉サービスの対象者が複数訪れると言います。どんな事情があっても等しく入館し、情報を手に入れることができる図書館は、社会的に弱い立場の人が辿り着く場所でもあります。図書館側のさらなる目標では、相談に乗る以外にも、彼らに必要と判断した書籍の提供や趣味講座への勧誘、就職のための研修も検討しています。

他にもワシントン州立図書館などでは、ワシントン大学の情報工学系学生と提携。更生施設の青年たちをVR(バーチャル・リアリティ)教室を活用しながら支援しています。青年らは図書館でアートやストーリー作成の講座を受け、様々な社会情勢を知るための関連書籍に手を伸ばすという好ましい傾向がみられたと言います。フィラデルフィア公共図書館は、増加する移民のために就職講座の開講を試みています。移民が多い他の州でも、英語の習得の困難さや貧困に悩む学生に向けた講座や学習支援を進めようとしています。

特徴としては、地域別の特色、課題を図書館が中心となって把握し、行政や大学、NPO法人と連携しながら課題解決を目指していることが挙げられます。米国でピュー・リサーチ・センターが全米の3015人に対して行った情報源の信頼調査では、ライブラリアン(図書館職員)を「大いに信頼する」を選択した人は40%にのぼりました。次いで医療従事者が39%、家族や友人が24%、地元メディアと政府が18%…と続きます。

この結果には、客観的な情報が集まった場所で相談に乗る人々だからこそ信頼を得やすいのではないか、という分析もありました。図書館には情報提供という従来の役割を守りつつ、地域のハブとなる資質が十分にあると感じます。

図書館は、年齢、出身地、人種、経済状況に関わらず全ての人に開かれた存在です。長い間、情報を求めてアクセスしてきた多様な人々と接し、高い信頼を得てきたからこそできる「新しい役割」は、大きな希望を感じさせます。

【参考記事】

朝日新聞「アメリカ中間選挙2022」関連記事

読売新聞「米中間選挙 分断の現場」関連記事

日経新聞「2022 米中間選挙」関連記事

【参考文献】

闘う図書館アメリカのライブラリアンシップ 豊田恭子 筑摩選書