フレイル予防の「社会参加」はどれほど可能なのか 孫世代が考えること

読売新聞のコーナー「安全の設計」で連載中の「フレイル講座」。27日はフレイル予防のポイントの一つである社会参加がテーマでした。

フレイルとは「加齢による筋力の衰えなどで心身が弱り、要介護となる手前の状態」(読売新聞より)を指します。高齢者は多くの場合、要介護状態に陥る前に「Frailty(フレイティ)」という段階を挟みます。この状態は、筋力の低下により転倒しやすくなるなどの身体的問題に限らず、鬱などの精神的問題や社会的問題が絡む様々な要因により引き起こされます。このFrailtyという状態は日本語訳で「虚弱」が当てはまり、「不可逆的に老い衰えた状態」(日本老年医学会)という印象を与えがちですが、実際は、早期に発見して適切に対応すれば、再び健常な状態に戻るものと言われています。2014年に日本老年医学会がステートメントで取り上げて以来、社会的に注目を集め、少子高齢化社会における介護予防の観点で今後の課題にあがっています。

フレイル予防のポイントは「栄養」「身体活動」「社会参加」の3つです。どれも日々の習慣と結びついており、「意外と簡単に予防できるのだな」と思われる方も多いかもしれません。しかし、バランスの取れた食事を3食しっかりとるためには、食生活を見直す必要があり、非常に多くの手間がかかりますし、運動をする意欲や社会参加ができる環境がなければなりません。一人暮らしの高齢者が増えた今、なかなか実践できることではないでしょう。

今回のフレイル講座では、社会参加を行うためのきっかけづくりに着目した試みが紹介されていました。神戸市はボランティアに参加すると現金と交換可能なポイントが付与されるという仕組みを通して、社会とのつながりを意識した活動ができる環境を提供しているようです。このように社会参加をする仕組みは各地で整ってきていると筆者は感じていますが、当事者やその周囲の声はどのようなものなのでしょうか。

筆者は大学で地域と関わる活動をしてきました。地域のおじいちゃん、おばあちゃんの家でお茶をしながら地域について語ることもしばしば。そんな中でぽろっとでた言葉に衝撃を受けました。「隣の人は亡くなる前ずっと一人暮らしで、ぜんぜん顔も見てないし、家から出てたかなあ。地域の活動にも来てなかったし…」というのです。筆者が活動していた地域は人のつながりが強く、町内会のほかお祭りや運動会なども開催され、高齢者が多い中でも互いに声を掛け合い、助け合う、そんな雰囲気の場所でした。人とつながることのできる機会やその環境があったとしても、そこに参加するまでに「本人の意思」という壁が立ちはだかるのです。「参加したいのかも分らんからねえ。誘っても断られるし」と話を聞いた方は漏らしていました。

この話で思い出したのが筆者の祖父です。祖父は週に1回開かれる、地域の囲碁クラブに参加していますが、「行くのがめんどくさい」「何にもならないし、もういいかなと思ってしまう」と時折、参加したからないのです。囲碁クラブの他は積極的に社会と関わっていないため、ほぼ唯一の外出機会といってもよいでしょう。その機会を失うことになれば、フレイルの問題だけでなく、生きがいや楽しみが失われてしまうのではないかと、孫としては心配になります。一方で、無理に社会参加を促すのも違うような気がしてならないのです。

また、筆者は「高齢者の孤独」というテーマの研究に携わり、地域の高齢者にインタビューをする機会がありました。知り合いをたどって紹介してもらう方法で対象者を募り、孤独を感じるときや退職後の人とのつながりについて話を聞きました。驚くべきことに、話を聞いた人は皆、孤独を感じるときがないと話していました。家族がいる人、地域のサークルに頻繁に通う人、自ら趣味を楽しみ、その縁で人とつながる人、「孤独」とは程遠いのです。

「私たちのように、研究に参加する人は社会とのつながりがあって声がかかるけど、本当に孤独を感じている人を見つけるのは難しいと思う」「社会参加の機会はあるけど、そこに集まるのは活発な人ばかりよ」との声もあり、今思えば研究手法が適切ではなかったのではないかと考えさせられます。誰もアクセスできないからこそ、当事者は社会参加できないのだと強く感じました。一方でこの分野の研究では、アンケート調査のように無作為に選んでも協力を得られないことが多いのです。孤独の解消に情報技術を活用できないかを検討する研究でしたが、孤独で困っている人の声を拾いあげていない点で、「検討結果の適切さ」には疑問が残っています。

今回はフレイル予防の観点から「社会参加」を考えましたが、社会側が環境を整えたとしても、個人の意思があるため、社会参加を強要することはできません。さらに、今ある制度やきっかけづくりの普及、当事者へのアクセスの課題も残ります。それでもこうした仕組みが一人でも多くの人を動かし、フレイル予防、そして生きがいや日々の楽しみに繋がればと願うばかりです。

 

参考記事:

27日付 読売新聞朝刊(福岡12版)13面社会保障「社会参加 出かけるきっかけに」

参考資料:

一般社団法人日本老年医学会「フレイルに関する日本老年医学会からのステートメント

厚生労働省 パンフレット「食べて元気にフレイル予防