「クールジャパン」の魅力とは 中国人に聞いてみた

筆者はフリーランスで、中国人を対象に日本語会話をオンラインで個別指導しています。これまで高校生から大学生、社会人まで40人超を相手してきました。指導といっても文法や語彙は教えません。顧客の要望に応じて、会社の資料の日本語訳や日本の大学院への出願書類を添削することもありますが、大抵たわいもない雑談をするだけです。

生徒の日本文化に対する理解には毎回驚かされます。「高校生のとき、夏目漱石の『こころ』を読んで感銘を受けた」「修士課程では芥川賞作家の川上弘美さんの作品を研究した」「古代の和歌や百人一首が好き」「私の名字は『羅生門』の“ら”です」会話していると、随所に教養の深さを感じます。

多くの生徒が熱意込めて語るのは、日本のアニメ、漫画、ドラマ、ゲーム、アイドル、バラエティ番組、小説などポップカルチャーに対する愛です。今まで話題にあがった作品を列記すると、名探偵コナン、銀魂、サマータイムレンダ、ONE PIECE、HUNTER×HUNTER、夏目友人帳、ハイキュー、暗殺教室、SPY×FAMILY、DEATH NOTE、ナルト、斉木楠雄のψ難、鬼滅の刃、呪術廻戦、ナミヤ雑貨店の奇蹟、泣かないと決めた日、今日から俺は、みなみけ、半沢直樹、相棒、君の名は、ジブリ、ビリギャル、ドラゴン桜、遊戯王、シャドウバース、ゼルダの伝説、嵐、Kinki Kids、関ジャニ∞、Hey! Say! JUMP、ハロプロ、テレ東『家、ついて行ってイイですか?』、日テレ『月曜から夜ふかし』、東野圭吾『容疑者Xの献身』、京極夏彦『百夜鬼行シリーズ』など。

人名をあげると、羽生結弦、石原さとみ、小栗旬、佐藤健、菅田将暉、三宅健、マツコDX、上野千鶴子、岩田健太郎など。日本人の私ですら知らない作品名や人名が俎上に載ることがあり、話に時々ついていけなくなります。

日経新聞の昨朝の記事では「クールジャパン」政策の不振が論じられていたものの、筆者は中国人と話すたびソフトパワーの圧倒的影響力に驚かされます。なぜ、日本の作品が大人気なのか。不思議に思い、その理由を生徒と先日議論してみました。曰く、中国の作品はどれもこれも奮闘努力と立身出世が是とされます。抗日戦争のドラマに代表されるように、主人公がひたすら努力や苦労を重ねた末勝利や成功を勝ち取る、という物語ばかり。敗北やサボり、ズルは一切許されません。

それに対し、日本は怠惰や遠回り、おバカ、不出来を許す寛容さがあります。例えば、野比のび太は勉強ができない。スポーツもできない。困ったらすぐ泣くし、すぐドラえもんに頼る。そんなだらしない奴にも居場所があり、たまに大活躍するときもあるのです。バラエティ番組では品行方正なタレントより、くだらない言動をする「おバカタレント」が重宝されます。お笑いでは、どれだけ愚かな振舞いを出来るか競います。愚かさは卑下するものでなく、むしろ称賛の対象です。

完璧な人間像を追い求める中国に対し、怠惰や愚鈍、失敗を恥ずかしがらず、あるがままに表現する日本。どうやら、この人間らしさ溢れる気風が人気の要因ではないだろうか、という結論に至りました。とはいえ、このソフトパワーに陰りも見られます。中国人との議論では、こんな意見も耳にしました。

昔のアニメは絵が下手だけど、物語がとても面白かった。最近は画力が上がって絵がすごく綺麗になったけど、面白い作品は減っている。

明白な証拠はありませんが、正鵠を射た発言であるように感じます。原因は何か。今後どうすれば良いのか。その答えは、筆者にはまだ思いつきません。

 

参考資料:

14日付 日経新聞朝刊(東京12版)21面「クールジャパンたたきの不毛」