佐賀県在住の「実質福岡県民」とは?

何かと自己紹介をする機会が多い年度初め。自分の出身地を語る人はけっこう多く、また、触れないと誰かがそれを尋ねる場面をよく見かける。

あらたにすのプロフィール欄にも書いている通り、筆者はこれまでに全都道府県を巡った。自治体の名前もだいぶ分かってきて、名前も聞いたことがないような町や村は減りつつある。初対面の人が出身地を言ってきた時、その地域のことが大体頭に浮かぶので話が弾む。我が趣味が実生活で最も生かせる場面である。

自分が住んでいない地域に対してのイメージ、いわば第三者の評価をメインに自治体を序列化したのが、「都道府県魅力度ランキング」である。民間の調査会社が行っているものでありながら世間の注目度は極めて高く、NHKのニュース番組でも取り上げられる。

魅力度では、「どの程度魅力を感じますか?」という問いに対して、各都道府県それぞれ、「とても魅力的」100点、「やや魅力的」50点、「どちらでもない」「あまり魅力を感じない」「全く魅力的でない」0点で採点し、それらを加重平均して算出される。

2009年から毎年実施され、昨年10月に発表された「都道府県魅力度ランキング2021」は全国の消費者3万5489人からの有効回答を集計して作られた。トップは13年連続で北海道。そこに京都府、沖縄県、東京都が続く。

世間で話題になることが多いのが、このランキングの下位の県である。佐賀県は毎年順位が低く、21年版でも46位だった。この結果を佐賀県鳥栖(とす)市に住む知人に伝えたが、「僕は実質福岡県民だから、なんかどうでもいいや」と素っ気ない。

佐賀県に住んでいながら「実質福岡県民」とはどういうことなのか。交通の大動脈の国道3号線とJR鹿児島本線が九州を南北方向に貫いており、福岡県から鹿児島県に向かう場合、福岡県筑紫野市→佐賀県基山町→佐賀県鳥栖市→福岡県久留米市の順で通ることになる。ここからわかるように、基山町と鳥栖市は佐賀県の自治体でありながら、福岡県に挟まれている。

当然、福岡県との人の行き来も非常に激しく、鳥栖市の知人曰く、職場は鳥栖市にあるものの、同僚の自宅があるのは、市内、鳥栖市以外の県内自治体、福岡県がそれぞれ、3対3対4の割合とのこと。15年の国勢調査の結果にもその傾向が如実に表れており、他市町村から通勤や通学で鳥栖市に通う人のうち、県外に在住の人が約63%を占める。

JR鳥栖駅前で話を聞いた70代の男性の市民は、「コロナの新規感染者数は福岡県の方を先に見る」とおっしゃる。また、小学生の子ども2人を持つ同市在住の家族連れは、休日に出かける先は、まずは久留米市。思いっきり遊びたいときは、福岡市の博多や天神まで足を運ぶと言い、「博多駅までとほぼ同じ所要時間(JR在来線)がかかる佐賀駅まで行くことは滅多にない」と教えてくれた。

JR鳥栖駅(28日、筆者撮影)

住民票を置く県で仕分けすることは簡単だけど、その人の生活というものに軸を置くと、事情はもっと複雑だ。県境に近い人々は、その区切り方にどれほど納得しているのか。その区分での中心地に対してどれだけ帰属意識を持っているのかをよく考えながら、都道府県を語ることが必要だと思う。

「都道府県魅力度ランキング」の直近5年間の平均が8位の福岡県。そして45位(少数点以下四捨五入)の佐賀県。なんとも複雑な地にある鳥栖市民の心情を垣間見る取材だった。

 

参考記事:

朝日新聞デジタル 2020年3月17日「ランク1位?それがどうした!格付けしたがる社会との向き合い方