西成あいりん地区の今を歩く

新型コロナ新規感染者数の少ない状態が続いている。観光地では一時期大幅に落ち込んだ客足も回復しはじめ、かつての日常を取り戻しつつある。

 新型コロナが落ち着いている1217日、私は久しぶりに大阪市西成区のあいりん地区に足を向けた。同地を訪れるのは昨年9月以来だ。前回は、日雇いの仕事が激減している現状、そして、生活に困窮している人に無料でうどんを提供する男性からお話をうかがった(日雇い労働者を支える「一杯のかけうどん」)

それから13ヶ月。あいりん地区はどうなっているのか。日本最大のドヤ街の今を取材した。

「ちょっと前までは日雇いの仕事はなかってんけど、年末になって増えてきたね」。そう語るのは、あいりん労働福祉センターの裏手にいた日雇い労働者の男性(51)。10月以前は仕事にありつけない日が多かったが、週45日は働けるほど仕事が増えたという。

確かに、歩いていてもフロントガラスに求人要項が貼られている車をよく目にした。仕事を紹介する「手配師」が戻りつつあるのではないだろうか。

「『かけうどん』一杯無料にて提供させていただきます」。

淡路屋の店先には、「あの看板」があった。淡路屋は西成警察署の向かいにあるうどん屋。新型コロナの影響で仕事がなくなった労働者にかけうどん一杯を無料で提供していたお店だ。

「お久しぶりです」。

 暖簾をくぐり伺うと女性がひとり。以前取材した店主の大前さんはいなかった。「大前さんはどちらにいらっしゃいますか?」と尋ねると、「今は『新しいお店』にいます」と一言。店名と場所を教えてくれた。

淡路屋から歩いて10分ほどで、新しいお店、淡路屋丸に着いた。 

店名が記された真新しいのぼり旗 。12月、筆者撮影

 

「単刀直入に言うと、稼ぎ口を増やすためやね」

店内でそう語るのは、淡路屋、そして淡路屋丸の店主の大前孝志さん(46)。

「実は『淡路屋』はずっと赤字が続いてた。このままやと、うどんをタダで食べさすこともできへんようなるし、自分たちも食っていかれへんようになる」

そう思った大前さんは、もともと好きだった海鮮の居酒屋を新規オープンすることに決めた。それが淡路屋丸だ。

昨年10月ごろから準備を始め、今年1月には開店予定だった。しかし、新型コロナの感染拡大で何度も先延ばしになり、今月4日に満を持してオープンした。

「最近はコロナも落ち着いて、淡路屋、淡路屋丸にもお客さんは来てくれるようになった」。

穏やかな表情で大前さんは語った。

淡路屋丸にて。12月、筆者撮影

淡路屋での「かけうどん無料提供」も継続しているそうだ。

「緊急事態宣言が出てる時も休業することなく、ずっと店を開けてた。もちろん赤字やけど、生活に困って食べに来る人がいる以上、休む訳にはいかんやん」

 現在、日雇いの仕事も徐々に増えはじめ、あいりん地区は日常を取り戻しつつある。しかし、今でも110人近くは、無料のかけうどんを求めて店を訪れるという。

淡路屋が無料提供をしなくても良くなった時、あいりん地区がコロナ禍を克服したと初めていえるのではないだろうか。