介護・保育職給与 成長へ期待

政府は 19 日の臨時閣議で新たな経済対策を決定しました。財政支出は過去最大規模の 55.7 兆円に上り、コロナ禍での困窮者への給付、経済活動再開の支援など多岐に渡ります。

経済対策の内訳は、新型コロナの拡大防止にかかる費用が 22.1 兆円を占めます。また、「新 しい資本主義」の項目には 19.8 兆円を充てるようで、そこには「看護師、介護職員、保育 士らへの賃上げ」が盛り込まれていました。政府は、保育士や介護職員らの月収を約 9000 円底上げする方針で、エッセンシャルワーカーの待遇改善への期待が高まります。

以前から、保育士と介護職員の働く環境を見直す必要性が訴えられてきました。主に議論さ れてきたのは、命を預かる専門的な職業であるにもかかわらず低賃金である問題です。安月給で大変な仕事というイメージが業界の人手不足につながっているとの指摘も少なくありません。

2020 年賃金構造基本統計調査によると、介護職員の平均賃金は 23 万 9800 円。保育士の平 均賃金は 24 万 5800 円。全産業平均の賃金 30 万 7700 円を大きく下回っています。

実際、 筆者の親族が非常勤の介護職を検討した際の賃金の試算額が、あまりにも低かったことに愕然とした経験があります。手取り額は 13〜14 万円。週4日、1日5時間勤務の大学生の アルバイト代は8万円程なので、それに数万円を上乗せした額です。祖母、母、筆者の 3 世代からそろって驚きの声が上がったことを覚えています。インターネット上 では、正規職員でも手取りが 14 万円から 16 万円という話も聞きます。

今回の賃金の底上げは、労働環境改善のきっかけになることは確かです。一方で、9000 円を上乗 せするだけで終わってしまっては、本当に目指すべき労働環境の改善にはならないと思います。社会に大きな貢献をしているにもかかわらず、人材不足が叫ばれている。そうした職業については社会全体でアクションを起こし、待遇を向上させるべきではないでしょうか。

かつて、教師不足の時代であった 1970 年代に首相の田中角栄氏は人材確保法を成立させま した。優秀な人材を得るには、まず待遇の改善を、という信念からです。段階的に給与が引き上げられ、最終的に 25%の給与改善につながりました。一般公務員よりも高い水準へと 引き上げられたことから、優秀な人材が教育業界に参入した前例は、将来への希望につなが るように感じます。日本は超高齢社会。人口の多い団塊世代が後期高齢者となる 2025 年問 題も目前に迫り、ますます介護職員の需要は高まるでしょう。

2019年度の精神疾患による労災請求は、「社会保険・社会福祉・介護事業」が256件で全職種中1番となりました。2009年の66件から約4倍の増加で、近年は介護職が常に1番の状態が続いています。このような現状からも、肉体的にも精神的にもハードな仕事であることがうかがえます。

社会に必要とされる仕事に人を集めるためには、まずは待遇改善を。単純なことかもしれませんが、今回の取り組みが大きな社会改造につながれば嬉しいです。