公立学校で真の「自治」は不可能か

あなたは、中学や高校の学校生活で、「自分の意見が反映された」と感じた経験がありますか——。

今日11月20日は、子どもの権利条約が採択された日。そこでは、すべての人の権利を認めることが、正義や平等の基礎となることを前提として、子ども(18歳未満)を権利をもつ主体と位置づけ、大人と同じく一人の人間としての権利を認めています。身体的にも精神的にも発展途上の段階であり、弱い立場にある子どもたちにとって、必要な保護や配慮についても明記されています。

「命を守られ成長できること」「子どもにとって最も良いこと」「意見を表明し参加できること」「差別のないこと」という4原則が示され、条約の中で定められている権利としては「参加する権利」などがあります。

【第3条】 子どもにもっともよいことを

子どもに関係のあることを行うときには、子どもにもっともよいことは何かを第一に考えなければなりません。

【第12条】 意見を表す権利

子どもは、自分に関係のあることについて自由に自分の意見を表す権利をもっています。その意見は、子どもの発達に応じて、じゅうぶん考慮されなければなりません。

【第29条】 教育の目的

教育は、子どもが自分のもっている能力を最大限のばし、人権や平和、環境を守ることなどを学ぶためのものです。

(unicef ホームページ 「子どもの権利条約 日本ユニセフ協会抄訳」より)

 

この条約は、1989年に採択され、日本では94年に批准し、発効しました。

はてさて、私たちの小中高校生時代にそんな機会はあっただろうか。今の子どもたちには、「自分に関係のある」ことについて、十分に検討する機会が与えられているだろうか。もっともっと、自分達で決められることがあったのではないか。筆者は教職課程を履修していますが、教育実習などで、あの頃と変わっていない現場を見る機会があるだけに、首を傾げたくなります。限られた時間と労力のなか、生徒の意見を十分に反映させる「自治」を実現するのは不可能なのでしょうか。

東京・世田谷区立桜丘中学校は、校則も定期テストもない公立中学校として、近年注目を集めています。生徒総会は非常に賑やかで、校庭の芝生化、体育館の冷房化、定期テストの廃止、校内の自動販売機の設置などの議題が生徒の間から持ち上がり、議決されるんだとか。「ブラック校則」が昨今話題になっています。目的のわからない、あるいは効果が定かでない、大人の考えたルールや「当たり前」は、子どもたちをじっくり見て、真っ直ぐ向き合い議論すれば覆っていくといいます。

公立の学校で教師がチャイム着席を促したり、「真面目に掃除をしなさい」と叱ったりすることは、まだまだよくあることだと思います。大人の言うことをよく聞くいわゆる「良い子」だった筆者が中学生の頃も、「反抗する人やサボりたい人はどこにでもいるもの」「だから先生に怒ってもらうほか解決策はない」と思っていました。

しかし、もしその一つ一つの行動の必要性を、子どもたちが実感を伴って理解していたら、先生が口をはさむことはなくなるのではないでしょうか。「みんながやっているのだから、あなたもやらなければいけない」というのは、その行動の理由ではありません。掃除なら、「自分たちが過ごしやすくするために綺麗にしたい」「そのために週に何回、この人数で、それぞれの担当場所を掃除するんだ」というのが本質のはずです。

本来そこで生まれるコミュニケーションは、先生から生徒へのトップダウンの指示や命令ではなく、ただ同じ空間で過ごす対等な人同士の、あくまで「要求」に過ぎないものでしょう。そこでの大人の役割は、考えを言葉にするのが難しい子どもが何を求めているのかを推しはかり、その意思表明を支援することだと思います。

公立の学校でも、子どもたちが自分たちで自分たちのことを決める「自治」を実践している事例がないわけではありません。子どもたち同士で議論をしたり、意見を表明するための機会を確保したりするには、多くの時間も必要ですが、それでも不可能とは言い切れないということです。

その実現を阻んでいるものの一つは、教員の多忙なのかもしれません。今まで自分が受けてきた教育、実践してきた教育を疑い、本質を見定めたうえで抜本的に変えようとするには、大きな労力と時間が必要に思えます。人と向かい合う仕事ですから、すでにあるハウツーを当てはめるだけでなく、子どもたちに適した方法を模索しなければいけないでしょう。腰を据えてじっくり取り組む時間がなければ手が回りません。

子どもたちの権利を守るために。主権者としての基礎を培うために。社会全体で、子どもをどう育てるかと言う課題、さらには教員の過労問題にも、真剣に向き合っていかなければなりません。

 

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参考資料:

尾木直樹 西郷孝彦 吉原毅『「過干渉」をやめたら子どもは伸びる』小学館新書 2020年