寝不足が生み出す日本社会の損失

塩野義製薬は2022年度から、「働き方改革」として週休3日制度を取り入れることを決定しました。大学院での学び直しなどを想定したもので、あわせて副業も解禁します。知識の吸収や社外の人脈づくりに使える時間をつくり、組織全体のイノベーション力を高めることが目的だそうです。近年よく耳にするようになった、週休3日制。日本政府は、企業による選択的週休3日制の導入促進を盛り込んだ「骨太の方針」を6月に閣議決定しました。しかしながら、20年度の厚生労働省の調査によると、休みが「完全週休2日より多い」制度を持つ企業は8%にとどまります。

「働き方改革」が謳われながらも、人手不足、長時間労働、過労死…など日本社会には様々な問題が絡みついています。厚生労働省の定義によると、働く人々が個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を、自分で選択できるようにするのが「働き方改革」です。しかし、定時に帰らせられても、仕事は終わっていないから家に持ち帰る、なんて話もよく聞きます。それでは、働き方改革などとは言えません。当然、家に持ち帰った仕事は家族との団らん時間、そして貴重な睡眠時間を蝕みます。

OECD(経済協力開発機構)の統計によると、日本人の睡眠時間は平均7時間22分で加盟国のうち30か国で最下位。全体の平均8時間25分とは1時間ほどの差があります。また、米シンクタンク「ランド研究所」の試算によると、日本の睡眠不足が引き起こす経済損失は15兆円。GDP(国内総生産)に換算した損失の割合は2.92%で、調査対象の日本、イギリス、ドイツ、カナダ、アメリカではワースト1位です。

寝ないとダメだと頭では分かっていながらも、仕事や課題をこなすことを優先してしまい、どうしても睡眠の優先順位は下になってしまいがちです。その結果、仕事中は眠くて集中できない、でも仕事は山積みという悪循環に陥ります。寝たいのに寝れない。この状況がいかに辛いかは、ほとんどの人が分かるはずです。しかし、この辛さを知っている人間自身が、この状況を生み出してしまっているのです。

「働き方改革」というと、労務管理にフォーカスを当てがちです。労働時間を減らしても、仕事量が変わらないのであれば、効率的とは言い切れませんし、労働者の負担は減ることはありません。逆に首を絞めることに繋がりかねます。だからこそ、労務管理だけでなく、生産性にも目を向けることが必要なのではないでしょうか。今までと同じ仕事量を、短い労働時間でいかに効率的にこなせるか。今求められているのは全ての労働者が無理なく働くことができる、かつ生産性が高められる環境づくりなのです。

 

参考記事: 22日付 日本経済新聞(愛知12版)38面 寝不足日本が失う15兆円

22日付 日本経済新聞(愛知14版) 3面 塩野義、週休3日可能に