なぜ旅をするのか? 北海道で14km歩いて思ったこと

列車を降りると、ホーム上に設けられた看板の「北緯45度の町 ほろのべ」という文字が目に飛び込んできた。ここは北海道のJR宗谷本線幌延駅。札幌から北に約220kmのところにある。「え、こんなに北まで来たのに、まだ北半球のど真ん中?」。結構衝撃だった。

改札を抜け、駅横の駐輪場に向かう。自転車はたったの3台、がらんとしていた。レンタル用の自転車には鍵がかかっていた。あれ、無料で貸し出しているはずじゃ…。これを利用しようとしていたため、困った。

幌延駅の駐輪場(筆者撮影)

「兄ちゃんどうしたの?」。駐輪場前で考え込んでいた私に通りがかりのおばさんが声をかけてくれた。事情を話すと、鍵を開ける方法を知り合いに電話で聞いてくれるという。先方からの折り返し電話を待つ間、女性はこの地域のことを教えてくれた。

「隣の豊富町ってところには日本最北の温泉郷があって、そこのお湯は皮膚にすごく良いんだよ。だから、皮膚の病気を持っている患者さんが『最後の砦』と言って全国からやってくる。ここで治している間、トナカイの飼育のバイトをする人も多いんだよ。」

トナカイって実際にいるんだ。私は初めて知った。その豊富温泉というところも気になる。「暇だったら行ってみたら?」とおばさん。でも、調べてみるとトナカイ牧場はコロナのせいで休業中。おまけに、レンタサイクルもやっていないという連絡が入ってきた。

仕方ない、歩こう。私は幌延駅から6.5km北にある、南下沼駅に向かって歩き出した。この駅は2006年に廃止され、現在は使われていない。さびれた駅が好きな私にとって、どうしても行きたい場所だった。

北海道の道は立派だなぁ。歩きながら思った。30分に一台、車が通るかどうかくらいの道も、しっかりと片側一車線で路肩も広く、路面の凹凸も少ない。国道のうち、北海道だけは国交省の北海道開発局という部署が担当し、他の都府県を管轄する全国の地方整備局とはっきり区分されている、と土木学科の先輩が言っていたのを思い出した。道が良いので車がかなりのスピードで通り抜ける。そして、車内の人が私を物珍しそうに見てくる。こんなところを歩く人なんて、普通いないよなぁ。

南下沼駅までの道(筆者撮影)

歩き始めて20分。道路脇に雪印メグミルクの工場を見つけた。調べてみると、ここで「雪印北海道バター」の製造をしているらしい。私もこの商品をよく使っていたため、こんなに遠くから運ばれてきていたことにちょっと感動した。福岡に帰ったら、スーパーでチェックしてみよう。楽しみなことが一つ増えた。

 

「ゆっくり行くから、見えてくるもの」。JRが発売する青春18きっぷの広告ポスターで使われたキャッチフレーズだ。青春18きっぷはJRの普通列車などが乗り放題で、新幹線や特急に乗ることはできない。この切符ならではの謳い文句だ。ちなみに、私は今回の旅でこの切符を利用した。

幌延の探索も、徒歩という最も遅い移動手段だったからこそ知り得たことがたくさんあった。自転車だったら、車だったら、もしくは幌延駅を下車せずにそのまま通過していたら気づかなかったはずの情報ばかりだ。もちろん、大半はインターネットに出ている。例えば、雪印の工場はGoogle Mapなどで拡大すれば見つけられる。ただ、そのきっかけがない。

現地に行くということは、多少なりともその場の状況に身を委ねることになる。だから、自分ではどうしようもできない、想定外のことが起こりやすい。それが楽しく、私はいつまで経っても旅が好きだ。

 

南下沼駅に着いた。ホームと駅舎は取り壊され、形跡すら感じない。あたりに民家は見当たらず、よくこんなところに駅があったなと思う。よし、日が暮れないうちに、折り返し幌延駅に向かうとしよう。どうせなら、行きとは違うルートにしてみよう。また新たな発見があるかもしれない。

帰りは細い道を通って帰ることにした。両側は牧草(筆者撮影)

 

参考資料:

国土交通省HP 地方支分部局

雪印メグミルクHP

豊富町HP 豊富温泉