スポーツとジェンダー

来週から始まる東京オリンピックは、国連が掲げるSDGs(持続可能な開発目標)を運営の指針にしている。例えば、競技会場での再生可能エネルギーの利用状況やリサイクル率、競技会場周辺の水質、ハラル料理の普及状況に代表される宗教上の習慣への配慮など、国際的なスポーツ大会の開催はSDGsの多くと緊密に結び付いているのだ。17あるSDGsの目標のうち、ここでは日本で大きな課題の1つでもある「ジェンダー平等」について、スポーツにおける現状を考えてみたい。

スポーツとジェンダーを考えたとき、私は2019年に日本で公開された映画『チア男子!!』を思い出す。この作品は直木賞作家・朝井リョウの人気小説が原作で、11年のコミック化、16年のアニメ化や舞台化など様々なメディアミックスに続き、19年に実写映画が作られた。

怪我で柔道を諦めた大学生が親友と一緒に男子チアチームを結成し、大舞台に挑むまでの道のりを描いた青春映画である。私自身、大学で女子競技チアリーディングのサークルに所属したこともあり、初めて見たときにチアの描かれ方に共感する部分が多かった。

しかしこの映画で最も注目するべきなのは、女子の競技というイメージが強いチアリーディングに男子大学生が挑戦する点だ。従来ならマジョリティとして表現されることの多い男性が、ここではマイノリティとして挑戦する姿を描いており、「チアは女子がやるものだという固定概念も、冷たい視線も、俺たち自身がぶっ壊したい。チームの名前はBREAKERS!」というセリフが印象的だ。部員集めの段階から「男子がチア?」とまわりから敬遠される主人公たちの姿に、スポーツのジェンダーバイアスを打ち破ろうとしているのは必ずしも女性だけに限った話ではないことに気付かされる。

改めて考えてみると、男性中心のスポーツが多い中なぜチアリーディングは女性のスポーツとみなされてきたのか。その背景には、女性は一歩引いて男性をサポートする存在という社会的・文化的な固定観念があり、あくまでも他のスポーツを「応援」することを目的とするチアリーディングとマッチしたからではないかと私は考える。

この作品で描かれているのは、応援のみのチアが発展し、大会出場などチアリーディングの演技そのものをスポーツとして認識する「競技チアリーディング」だが、これが登場したのは1980年代以降とされている。これまで「グラウンドの外」にいたチアリーダーが、競技そのものの主役として活躍するようになってからの歴史はまだまだ短いのだ。しかしそうした歴史やイメージに関係なく、あくまでもひとつのスポーツとしてチアの練習に励む登場人物、男子7人は、このようなスポーツ界における偏見や固定観念を乗り越えようとする挑戦者たちのようにも見える。

映画の中で結成されるチームBREAKERSのモデルとなっているのは早稲田大学の男子チアリーディングサークルSHOCKERSで、私も一度演技を見たことがある。男子だからこそのジャンプの高さや迫力を含め女子には表現できないような力強さを感じた。競技チアリーディングは依然として「応援」という従来のチアのイメージが邪魔しているせいか、早稲田大学のSHOCKERS以外は大学における競技人口は少ないが、これからどんどん競技人口が増えていくポテンシャルを感じた。

オリンピックでは、スケートボードやスポーツクライミング、サーフィンなど、今大会から正式に仲間入りする新競技もある。その中で、各競技におけるジェンダーバイアスはどのように変化していくだろう。

今年初め、森喜朗前会長の「女性がたくさん入っている会議は時間がかかる」という女性蔑視の発言が問題になったように、日本、ことにスポーツ界におけるジェンダー平等への道のりはまだ長い。東京オリンピックは、スポーツとジェンダーの課題についてどのようなレガシーを残していくのか。実際に国際オリンピック委員会の公式放送機関であるオリンピック放送機構(OBS)で3週間インターンする者として、ジェンダーを含めたSDGsの観点から五輪を見つめていきたい。

参考記事:

15日付 朝日新聞デジタル 「(スポーツTOPICS)五輪×SDGs、現状は 朝日新聞社・慶大研究室調査」

参考資料:

映画『チア男子!!』