緊急事態宣言解除、五輪開催 科学的判断か

6月18日、緊急事態宣言20日解除の決定が報じられました。オリンピックまであと35日。まさにコロナウイルス感染拡大の下でやってきた日本の分水嶺です。

宣言解除に関する各社の社説を比較しました。

<朝日新聞>

緊急事態宣言の解除に関してはあまり否定的な立場をとっているわけではないが、現状を厳しく指摘している。「前回の解除時に政府が掲げた5本柱の総合対策は、ワクチン接種を除けば、多くは中途半端なままだ」。「追加の病床確保」や「変異株の監視・封じ込め態勢」、「無症状者を対象としたモニタリング検査」が不十分で、再拡大防止が取り組むべき課題だとしている。また、自粛要請に関しては、「協力金の迅速な支給など、実効性のある支援策」の必要性を論じている。五輪開催には極めて否定的で、「約7万人のボランティアをはじめ、食事や清掃、輸送、警備など大会を支える人々が、選手村や会場などに出入りする」ことから「感染のリスクは否定できない」とした。「国民の命と暮らし」を守るために再宣言の可能性を見据えた指摘があった。

<読売新聞>

朝日と同様、緊急事態宣言解除に否定的な立場はとっていない。「五輪の安全な開催は国際公約でもある」とし、「政府は、(分科会の)提言の趣旨を真摯に受け止め、効果的な対策を講じてほしい」と述べている。ワクチンに関しては「64歳以下も受けられるようにするため、職場や大学などでの接種機会をさらに増やす」重要性、運用の円滑化を求めた。さらに五輪開催下でも感染者数が急増した場合の緊急事態宣言発令を強調した。

<日本経済新聞>

「経済活動をある程度、戻すためにも緊急事態宣言の解除は妥当」とする一方、「一気に行動制限をなくすのはリスクが大きい」とする。「時短営業や酒類の提供自粛を要請」はするが、「感染リスクに応じた営業時間や酒類の提供時間を柔軟に決められる」ことを提案している。また、ワクチンの効果に大きな期待を寄せており、今後「高齢者以外も含め接種を急ぐこと」を重視している。そのうえでなお、感染拡大が止められない場合は五輪開催中でも緊急事態宣言に踏み切るべきだと主張した。

各紙とも、緊急事態宣言解除に関しては否定していませんが、現在の状況ではまだ感染拡大防止が十分でないと断じています。五輪開催の是非では意見が分かれており、朝日は完全に否定、読売、日経は中立的な立場をとっています。筆者は、分水嶺にいる今だからこそ、メディア各社に明確な意思表示をしてほしいと思います。

宝島社ホームページより

さてここで上の広告に注目ください。5月11日の朝日、読売、日経の朝刊3紙に掲載された宝島社の広告です。両面見開きを存分に生かしたカラー広告で「ワクチンもない。クスリもない。タケヤリで戦えというのか。このままじゃ、政治に殺される」というキャッチコピーが印象的でした。宝島社は、新型コロナウイルスの感染が広がるなかで自粛要請を強いられるばかりの事態に警鐘を鳴らす必要性を感じて、発信に至ったと言います。

ウィルスSRAS-CoV-2を中心に配置し、背景には戦争中に竹やり訓練をさせられた少女たちの姿があります。なぜ、この写真なのか、広告の意図について宝島社ホームページでは以下のように語られています。

今の日本の状況は、
太平洋戦争末期、幼い女子まで竹槍訓練を強いられた、
非科学的な戦術に重なり合うと感じる人も多いのではないでしょうか。

コロナウイルスに対抗するには、科学の力(ワクチンや治療薬)が必要です。
そんな怒りの声をあげるべき時が、来ているのではないでしょうか。

強いメッセージ性を持っているのが「非科学的」という言葉です。デジタル大辞泉は科学的について「考え方や行動のしかたが、論理的、実証的で、系統立っているさま」と説明しています。「非科学的」はその逆。つまり「考え方や行動のしかたが、論理的、実証的でなく、系統立っていないさま」と言い換えることができるでしょう。

緊急事態宣言の解除、オリンピックの強行、まん延防止等重点措置、自粛要請、ワクチン・・・。政府の判断は「科学的」でしょうか。現在進行形で進む感染症だからこそ、判断が難しいと思いますし、「間違っている」「科学的でない」と言い切る自信はありません。また「科学的」な判断が全て正しいとは言えません。しかし、一つの判断が1億2557万人の日本国民、オリンピックに関しては世界中の人々に多大な影響を及ぼします。政府には5年後、10年後に今を振り返った時、悔いることのない判断を望みます。

ソーシャルディスタンスや3密回避などの一見「タケヤリ」に見える対策で今までコロナウイルスと対峙してきた日本。我々国民は、そこに「科学的根拠」があるのか、しっかりと見極めたうえで同意や批判をすべきでしょう。

 

参考記事:

17日付 朝日新聞夕刊(福岡4版)5面「『タケヤリ広告』に反響多数」

18日付 朝日新聞朝刊(福岡14版)1面「緊急事態20日解除 決定」

18日付 朝日新聞朝刊(福岡13版)12面(オピニオン)「再拡大懸念下の解除 五輪リスク、首相は直視を」
18日付 日本経済新聞朝刊(福岡12版)2面(総合1)「『緊急事態』後の制限緩和は段階的に」

18日付 読売新聞朝刊(福岡13版)1面「酒『夜7時まで』条件付き」
18日付 読売新聞朝刊(福岡13版)3面(総合)「感染再拡大の前例繰り返すな」

参考資料:

宝島社ホームページ