守られる加害者 晒される被害者

3日前の出来事です。東京都立川市のホテルで男女2人が刺されて死傷する事件が起きました。逮捕されたのは19歳の少年で、亡くなったのは派遣型風俗店の従業員の女性です。残酷にも女性は全身約70箇所を刺されました。

この報道はその日のうちに物議を醸しました。一部のテレビ局などが女性を実名報道したからです。中には慌てて文章を書き変えたのか、記事の前半部は匿名なのに後半部で女性の苗字を記載したままのWEB版の新聞記事も見つけました。

2日筆者撮影 16:30時点で「実名報道」はTwitterのトレンド18位になっている

朝日新聞では6月2日の夕刊と3日の朝刊、読売新聞では3日の朝刊で報じられていますが、どちらも女性の実名は伏せています。WEB版でも同じでした。

1日の朝日新聞では「社会の中の性風俗業」に関するオピニオン特集が掲載されています。ソーシャルワーカーや弁護士と性風俗業界で働く女性をつなぐ「風テラス」発起人の坂爪慎吾さんのインタビュー記事に目がとまりました。

性風俗業界には、生活に困窮するシングルマザーや非正規雇用の女性などが多く働いています

性風俗に従事する女性たちの中には誇りを持って働く人もいれば、このように貧困からやむを得ず仕事をしている人も少なくありません。もちろん職業に貴賤はありませんし、あっていいはずがありません。しかし、記事の中にも「道徳論や是非論」「不健全」というワードがありました。世間的に、まだまだ差別や偏見が多い職業であることは確かです。だからこそ性風俗で働く女性たちは家族や友人に黙っているケースが多いといえます。

その可能性が1ミリでもあるならば、報道関係者は被害者の人権を考えなければなりません。命を奪われたうえに、実名を晒される。この事件では被害者の尊厳が大きく傷付けられました。

そんなメディアの対応に声明文を出した団体があります。セックスワーカーが安全、健康に働けることを目指して活動している「SWASH」です。

「SWASH」が出した声明文 Twitterより引用

要望書には、プライバシー保護の訴えとともに、過去に被害者家族の住所が特定され、風俗で働いていたことに対する誹謗中傷があったと記されています。読んでいて怒りすら覚えました。そして一つの事件を思い起こしました。それは4年前、さいたま市の大宮にあるソープ街の一角で火災が発生した事件です。当時高校生だった私は大宮を経由して通学していたため、ゆかりある土地での出来事にショックを受けました。

この火災では客を含む5人の男女が亡くなりました。当時の事件を調べてみると、従業員の女性も客の男性も一部メディアで実名報道をされています。ネット上では被害者たちの個人情報に加えて心ない書き込みがありました。これを遺族が見たら…と考えるだけで心が痛みます。実名が世間に知れ渡ったことが二次被害をもたらしたのです。

2017年12月17日 日経電子版より引用

今回の事件に戻ります。加害者は少年法で実名報道を免れました。法に守られる加害者とマスコミに晒される被害者、何故こういった構図が生まれるのでしょうか。実名報道の意義について私たちはあらためて考える必要があります。今もなお、一部メディアはこの事件における被害女性の実名を掲載したままです。一刻も早い削除を求めます。

 

 

  明石書店『報道される側の人権』

記事を書くにあたり、『報道される側の人権』という本を読みました。96ページ「被害者のプライバシーとテレビ報道」では今回の事件とよく似た事例が取り上げられています。被害者への「人の道としての良心」について何度も問われました。是非多くの方に手に取っていただきたいです。

 

参考記事:

1日付 朝日新聞朝刊 埼玉13版 13面 「社会の中の性風俗業」

2日付 朝日新聞夕刊 埼玉4版 7面 「風俗接客でトラブルか」

3日付 朝日新聞朝刊 埼玉14版 31面 「殺人未遂容疑で逮捕」

3日付 読売新聞朝刊 埼玉13版 29面 「ホテル男女死傷 19歳逮捕」

2017年 12月17日 日経電子版 「風俗店火災で4人死亡、1人重体 大宮」

参考資料:

「SWASH」Twitter

https://twitter.com/swash_jp/status/1400095083110625283?s=21