昨年11月、筆者が所属するフィールドホッケー部で騒動が起こりました。数日後に4年生の引退試合を控えていた時期です。ある部員のもとに、ニュースが飛び込んできました。早速、部のLINEグループで共有した記事は、引退試合で対戦する予定の大学で80人規模のクラスターが発生したというもの。その3日前に1名の陽性患者が出ていたということもあり、ほとんどの部員はそこからクラスターが発生したのだと疑いませんでした。誰もが試合は中止になると肩を落とし、不安に駆られました。
情報元は、週刊誌が編集するネットニュースのサイト。記事をよく読んでみると、取材したとされる現役学生の実名、年齢などは明かされていません。本当に信用していいものか、いや怪しいぞ。もしその事実があるのなら、大学や自治体が公表するだろう。そう思い続報を待ちました。
翌日、その大学が立地する市から発表がありました。陽性者は、再検査で陰性であり、濃厚接触者とされていた84名は全員陰性であったというのです。
これを受け、ニュースサイト側は記事を削除しました。筆者は、クラスターが発生していないことに安心する一方で、誤報を信じてしまいそうになった自分を情けなく思いました。ネット上にも、同じような書き込みをいくつも見かけました。しかし、誰もがそうとは限りません。ツイッターで検索してみると、市の発表があってからも、「家が近いから怖い」、「そういえばクラスターってどうなったんだっけ」などの書き込みが。
コロナ禍で多くのデマがはびこり、私たちの生活はより混乱しました。読売新聞の全国世論調査では、23%がネットの偽情報を信じたことがあると答えています。
筆者は、今回の騒動を通してデマがもたらした衝撃のみが後々まで残り、それに続く正しい情報が行き届かない現状を目の当たりにしました。その傾向はデータからも見て取れます。
総務省の情報流通調査によれば、コロナに関する情報の真偽確認の経験について、「調べることが多かった」が30.5%、「調べない方が多かった」が49.1%でした。また、誤解を招く情報を見聞きしたことがあるメディアとして、ツイッターが57%、ブログやまとめサイトが36.5%とされています。しかし反対に、デマへの注意喚起がなされていたメディアとして、民間放送の次にツイッターが挙げられています。つまりツイッターは、デマもそれに対する注意喚起も拡散しているということです。
デマを訂正するのに、どのメディア媒体が最適だとは言い切れないでしょう。人によって、よく利用するサービスは異なるからです。ただそれがSNSだけという人は、人一倍メディアリテラシーが求められ、拡散する前に一度、そのニュースの真偽を疑う姿勢が欠かせないのは確かです。
ちなみに引退試合では、3-2で勝利を収めました。もちろんソーシャルディスタンスは保ちながら。ハグやハイタッチはできません。それでも、悔いはないと笑う4年生を見ると試合ができたこと自体が、本当にありがたいと実感しました。
コロナ禍の大学スポーツに関する記事はこちら
参考記事:
11日付読売新聞朝刊(東京12版)11面「ニュースの門 コロナのデマ犯人はお前だ!」
参考資料:
総務省 新型コロナウイルスに関する情報流通調査 https://www.soumu.go.jp/main_content/000693280.pdf