座間事件の教訓 SNS型犯罪に注意せよ

15日、座間9人殺害事件の犯人に、東京地裁が死刑判決を下しました。9人もの女性を残虐な手段で殺したうえ、死体を損壊・遺棄したことを考慮すると妥当でしょう。しかし、今改めて我々が注目すべきは、被告の量刑よりも犯罪の手口です。3年前に起きたこの事件の特徴は、Twitterが悪用されたことでした。犯人は、自殺願望を仄めかす女性に対し、一緒に死のうとメッセージを送って誘い出したうえで、不意を突いて暴行、殺害したのです。Twitterが売春に悪用されることは以前からありましたが、ついに殺人事件にも使われたということから大きな波紋を呼びました。

Twitterに代わる新しいSNSも同様の犯罪の温床になりかねない、と筆者は危惧しています。マッチングアプリ、俗に言う「出会い系アプリ」です。海外ではTinderやBumbleが、日本ではPairs、Tapple、Omiai、Withなどが有名です。近年、国内の市場規模は急拡大しており、(株)マッチングエージェントによると、3年前に258億円だったのが、今年は620億円。5年後には1,060億円まで増加すると推測しています。最も人気のPairsは月々のアクティブユーザーが90万人以上います。大学生の筆者の周囲でも認知度は非常に高く、利用経験があるという人は、男女を問わずちらほら。アプリを通じて知り合った人と婚約に至ったという先輩もいます。

以前は、怪しいアプリに誘導されるのは嫌だ、運命の出会いはリアルでしか得られない、などと言って敬遠する人が多くいました。しかし、女優の水原希子がTinderを利用していたことを公言したり、テレビ番組でマッチングアプリ特集が放送されたりしたことが話題となり、敷居は低くなってきています。特に今年は、コロナ禍の影響で普及に拍車がかかりました。大学では、授業の全面オンライン化によって、友達を作れず、孤独感や寂しさを覚える人が激増。会社でも、リモートワークやオン飲みの定着により、恋愛に発展するような交友関係を保ちづらくなっています。その結果、アプリに頼る人が増えているのです。なんと政府までもが、AIを使った婚活支援事業に補助金を出す計画を先週発表しました。少子化に歯止めをかけるのが目的です。

しかし、マッチングアプリは、Twitter以上に、様々な犯罪に悪用されるリスクもあります。Twitterの投稿は基本的に誰でも見ることが出来ます。例えば「パパ募集」「円光(援交)」などのキーワードで検索をかければ、売春に関連するアカウントがどれくらいあるか一目瞭然。関連する投稿のライクやリプライの数を見れば、どれくらいの人が釣られているか分かります。警察はサイバーパトロール活動の一環で、警告を促すメッセージを送っていますし、Twitter社も売春アカウントを容易に特定でき、削除・凍結などの対応を取ることが出来ます。しかし、マッチングアプリは、1対1の非公開チャットルームでメッセージが交わされます。怪しいユーザーがどれ程いるのか、傍からは見当がつきません。

加えて、恋活、婚活中のユーザーは、冷静な判断能力を失いがちです。「恋は盲目」と言うように、彼氏、彼女を求めて前のめりになりすぎると、相手の怪しい部分から無意識のうちに目を背けてしまいます。例えば、プロフィール文で「資産運用」「投資・株」「全国で事業展開」などと書いている輩は、冷静に考えれば、全員詐欺師だと分かります。本当の金持ちは、そんなこと自慢しませんから。しかし、美人風、イケメン風のプロフ画像に幻惑されてしまえば、資産運用しているなんて凄い、学生なのに学業と事業を両立しているなんて積極的、と思い込んでしまうこともあるでしょう。そして、オンライン通話をしてみると、暗号資産を勧誘されたり、知り合いの天才投資家を紹介したいなどと言われたりするのです。詐欺師は手慣れており、話し上手なので、騙されてしまう人もいるかもしれません。

不正利用の実態は、運営会社も把握しています。Tappleの運営は今月14日に対応策を発表。詐欺や迷惑行為などの不正利用が多い、アジア一部地域からの利用制限を実施し、不正アカウントの凍結も強化すると発表しました。しかし、不正会員がどの程度いたのか、実数は公表していません。ユーザ側からすると不透明な感じがします。詐欺に引っ掛かる程度ならまだしも、座間のような殺害事件にまで至れば、取り返しがつきません。米ネブラスカ州では17年に、日本でも18年に、Tinder絡みで知り合った男に、女性が惨殺される事件が起きました。海外で、マッチングアプリは「Hookup App」とも呼ばれ、一晩の関係を持つ目的で利用している人が多くいます。上記の事件では、被害者が性交を断った結果、逆恨みされて殺されたようです。

大流行するマッチングアプリ。トラブルに巻き込まれないためには、座間事件を他山の石として、SNSの中に悪いことを企む輩が紛れていることを理解しておくべきです。怪しいユーザーを的確に見抜き、近づかないことを心がけましょう。

参考記事:

朝日新聞、読売新聞  座間9人殺害事件 死刑判決 関連記事

マッチングアプリの種類も、年々増加している