「恩赦」意義は?権力に目を光らせて

トランプ米大統領は25日、「ロシア疑惑」の捜査に関連して偽証罪に問われ、公判中だったフリン元大統領補佐官に恩赦を与えました。刑免除などの恩赦は、合衆国憲法に基づく大統領の特権で、制限はありません。フリン氏については司法省が5月、訴追を放棄する異例の申し立てをし、裁判所が認めていなかったために公判が続いていましたが、これで打ち切られることになります。元側近に恩赦を与えたことで、民主党からは「トランプ氏は友達に報い、自身をかばった人を守るため、恩赦の権限を乱用してきた」などと強い批判が出ています。

日本でも、2019年10月、令和の時代を迎え即位の礼が行われる際に約55万人に恩赦が実施され、論議を呼びました。法務省はこの趣旨を「罪を犯した者の改善更生の意欲を高めさせ、その社会復帰を促進するという刑事政策的な見地から」としましたが、次のような批判が相次ぎました。痴漢や盗撮などをした加害者を救済対象とするのは被害者の心情を無視している。司法権への重大な干渉であり、三権分立が揺らぐ。この時だけ刑が軽くなるのは不平等。朝日新聞社の全国世論調査では、この時の恩赦について「反対」は54%と「賛成」の25%を大幅に上回りました。

そもそも恩赦とは、どのような意義があるのでしょうか。現代では、法律上の刑罰規定が社会的状況の変化に対応できずに硬直化している場合などに、例外的な回復措置として利用される制度と理解されています。たしかに、法律の規定やその解釈が時代に合わなくなることはままあります。両親や祖父母などの「直系尊属」を殺害した場合に通常の殺人罪に比べてより重く処罰する、刑法の「尊属殺」の規定が1995年に削除されたのはその一例です。また、裁判所がふるう権力を監視し、抑制するという目的も考えられるでしょう。

人権派弁護士だったバラク・オバマ前大統領は、任期中に1715人に恩赦を与え、歴代大統領で最多となりました。オバマ氏は強制的な最低量刑制度によって過剰な刑が科される実態の是正を訴えており、刑事政策的な観点からの制度の利用であったことが予想されます。

司法へどこまで干渉してよいのか。裁判所の判断を覆しうる、大きな権力を一人に許してよいのか。免除されうる刑罰の意味は何か。恩赦という制度の持つ意義と危険性を確認し、市民一人一人がその利用について目を光らせることが必要だと思います。

 

参考記事:

27日付 朝日新聞朝刊(愛知13版)3面(総合3)「トランプ氏、元側近に恩赦」

27日付 読売新聞朝刊(愛知13版)9面(国際)「元補佐官を恩赦 トランプ氏発表」

参考資料:

辻村みよ子『憲法 第6版』2018年 日本評論社

COURRIER JAPAN 意味あることか、時代遅れか? 世界中で行われている「恩赦」を考える

法務省 「復権令」及び「即位の礼に当たり行う特別恩赦基準」について