「開かれた映画体験」へ、映像作品のバリアフリー化で Palabra株式会社 山上庄子さん

Palabra代表・山上庄子代表(提供)

2016年に「障害者差別解消法」 が施行されてから10年。映画をはじめとする映像作品のバリアフリー化に取り組んできたのが、新宿に本社を置くPalabra株式会社だ。

字幕や手話映像の表示、音声ガイドの再生ができるアプリ「UDCast MOVIE」などを通した作品のバリアフリー化と、視覚・聴覚障害者の映画鑑賞における周辺サポートを手掛ける。2022年にはテレビドラマ「silent」(フジテレビ)でも同社のサービスが登場し、注目された。「Palabra」はスペイン語で「言葉」を意味する。言葉を通して映像作品のバリアフリー化を進める上で、どのような思いや工夫があるのか。同社の山上庄子代表からお話をうかがった。

「UDCast」利用イメージ写真(提供)

「ちゃんと職業にしたい」から始めたバリアフリーの専門会社

映画のバリアフリー化に取り組む会社を立ち上げたきっかけは、「ちゃんと職業にしたい」という思いだったという。設立当時の2013年、字幕音声ガイドはテレビでこそ普及が進んでいたが、映画においては手付かずだった。テレビに付けられていた字幕音声ガイドには納得がいかず、「もっと作品に寄り添ったものを作る必要がある」と感じた。そこで、作品鑑賞という観点からより高いクオリティや技巧が求められる映画の字幕・音声ガイド制作の道を選択した。

また、映画の字幕音声ガイドが、各地のNPOやボランティアといった有志により制作される状況もあった。映画業界の中で翻訳会社のような役割を果たすバリアフリー版制作専門の株式会社を立ち上げ、映画監督やプロデューサーが監修した字幕・音声ガイドを作ることで「業界を巻き込みバリアフリー化の普及に繋げたかった」と語る。

 

「良い字幕音声ガイド」とは 「作品性」「当事者性」の二軸の工夫に見る

制作において、Palabraが大切にしているのが「作品性」「当事者性」の二つだ。作品性とは、字幕・音声ガイドが映像作品における演出意図と合っていること、当事者性とは実際のユーザーにとっての分かりやすさを重視することだ。Palabraでは、作品ごとに必ず「モニター検討会」を実施する。映画監督やプロデューサー、視覚や聴覚に障害のある当事者が一堂に会し、会議室のモニターでプレビューを行う。この検討会でそれぞれの立場から集めた意見をもとにブラッシュアップすることが、字幕・音声ガイドのクオリティを担保する。

邦画の日本語字幕はセリフを文字にするだけではない。「情報をそのまま文字や音声にするだけでは不十分だ」と山上さん。例えば、BGMや効果音が突然消えて無音になる演出で、「無音」という字幕がついていたらどうだろうか?聞こえる観客を前提とした「音を消す」演出の背景には、視覚を画面に集中させる効果をねらっていることもある。その場合、「無音」という字幕を入れることで視線を字幕に向けるよりも、あえて字幕を入れない方が、結果としてよりその演出意図が伝わるかもしれない。このような細かい工夫の根底には、「映画には緻密な演出が沢山ある。それを字幕を利用する人にもなるべく自然に伝わってほしい」思いがある。

山上さんにとって「良い字幕・音声ガイド」の条件とは、鑑賞後の当事者から映画そのものの感想が出てくることだ。「字幕音声ガイドの感想が最初に出てくると、制作がうまくいっていないと思う」と山上さん。「映画は百人見たら百通りの感想が出てくるところに面白さがある。受け取り方に多様な余地を残したい」。

「UDCast MOVIE」ロゴ(提供)

映画体験を開かれたものに

字幕・音声ガイドの制作は、山上さんにとって「楽しい仕事」だ。学生時代の映画館でのアルバイト経験や両親が映画の仕事をしていた影響もあり、子どもの頃から映画が好きだった。昔からミニシアターに通い、様々な作品を見てきたという。綿密な字幕音声ガイドの制作のためには、同じ映画を何度も見ることになる。容易な作業ではないが、「映画好きにはたまらない仕事だ」と笑顔を見せる。

「映画体験」という言葉で、山上さんは映画鑑賞に関わる一連の体験を表現する。チケットを買い、映画館に向かい、多様な観客と空間を共にして、大きなスクリーンで映画を満喫し、高揚感の中で帰る。「それらの体験を含めた『映画』を開かれたものにしたい」という熱意が、Palabraの事業を支えている。

Palabra株式会社 ロゴ(提供)