シルバーウィークに3泊4日で北海道を訪れました。北の大地を旅すると、雄大な自然の景観に目を奪われます。しかし、その自然が時として大きな脅威にもなることもあります。
9月12日、札幌管区気象台は十勝岳の噴火警戒レベルを2から3へ引き上げました。火口からおおむね3キロの範囲で大きな噴石が飛散する噴火の危険性があるとして、入山規制が行われています。秋の観光シーズンとも重なり、宿泊施設では予約のキャンセルも起きています。
北海道の火山について考えるうえで、ぜひ知っておきたい場所があります。洞爺湖の近くにそびえる昭和新山です。
昭和新山
(2026年9月20日筆者撮影)
この山が生まれたのは、わずか80年ほど前のことであり、その誕生を克明に記録したのは、大学の研究者でも、気象台の専門家でもなく、地元の郵便局長だった一人の男性「三松正夫」です。
三松正夫の像
(2026年9月20日筆者撮影)
昭和新山の歴史は、1943年、第二次世界大戦のさなかに始まります。同年12月、有珠山周辺で激しい群発地震が発生しました。翌年になると地面が次第に隆起し、6月には水蒸気爆発が始まります。その後も火山活動は続き、地面は大きく盛り上がっていきました。やがて地下から粘り気の強いマグマが押し上げられ、巨大な溶岩ドームが形成されます。そして45年9月、火山活動が終息したころには標高約400メートルの山が誕生していました。それが昭和新山です。57年には国の特別天然記念物に指定されました。
三松は1888年生まれ。1910年の有珠山噴火の際、調査に訪れた地震学者大森房吉らの案内役を務めたことをきっかけに、火山への関心を深めていきました。その後、壮瞥郵便局長を務めます。43年末から有珠山周辺で火山活動が始まったとき、日本は戦争の真っただ中でした。軍部によって火山活動が機密事項として扱われ、専門家による十分な観測や調査が難しい状況にありました。
そんな状況で、三松は自分なりの方法で観測を続けたそうです。同じ場所から、同じ方向を見て、山の輪郭を繰り返しスケッチすること、地震の回数を記録すること、地面の変化を観察すること。そうして蓄積された膨大な記録をもとに作られたのが「ミマツダイヤグラム」です。これは昭和新山がどのように隆起し、成長していったのかを、一枚の図の中に表現したものです。
三松についての説明書き
(2026年9月20日筆者撮影)
三松の観測データは48年、ノルウェーのオスロで開かれた国際火山会議で発表され、その功績から、この図が「ミマツダイヤグラム」と呼ばれるようになったのです。
昭和新山をめぐっては、一つ考えなければならない課題があります。それは、この山をどうやって保存していくかという問題です。昭和新山は自然に生まれた山である一方で、現在は国の特別天然記念物として保護されています。2023年には昭和新山で落石が報じられ、風化による自然崩落の可能性が指摘されました。溶岩ドームは必ずしも安定した構造物ではなく、長い時間の中で表面が風化、崩落していくことがあります。
山そのものを現在の姿のまま保存し続けることはできません。だからこそ重要になるのが「記録すること」なのではないでしょうか。三松は、昭和新山の成長をスケッチし、地震の発生や地面の変化を記録しました。その記録があったからこそ、80年以上経った現在でも昭和新山がどのように誕生したのかを知ることができます。この記録すること、伝えることは、火山だけに限った話ではありません。
筆者が北海道を訪れていたころ、日本各地で大雨による被害が発生していました。9月21日には台風25号の影響で関東を中心に記録的な大雨となった地域があり、道路の冠水や土砂崩れなどの被害も発生しました。火山の噴火も、大雨も、人間の力で止めることはできません。だからこそ自然の変化を知り、記録し、伝え、そこから学ぶことが大切なのではないでしょうか。
80年以上前、一人の郵便局長が残した記録は、現在の私たちにも記録し伝えることの大切さを教えてくれているように思います。
(敬称略)
参考紙面
朝日新聞 2026年9月22日付朝刊 「土砂崩れ2人死亡4人不明 台風最接近 首都圏各地で冠水」
読売新聞 2026年9月13日朝刊 「十勝岳に入山規制 火山性地震増 初の警戒レベル3 周辺自治体 避難の動き=北海道」
2026年9月22日0時18分日経速報ニュース 「台風25号により関東大雨 複数箇所土砂崩れ、2人死亡4人不明」https://t21.nikkei.co.jp/g3/CMNDF11.do?Xid=99fa3f9b63e3f23b9266b4ccba74fbc5a42956f8cc0d8ffcb9b0f768d78d13a55b3e036fab5e36db6e63a2e330818e3672e35906af76c4e1690b71ddf50409e867c3d50f65efd776&Pkey=pkey1
参考サイト
文化庁 国指定文化財等データベース 昭和新山 https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/401/33?utm_source=chatgpt.com
昭和新山・三松正夫記念館 https://showa-shinzan.org/about/?utm_source=chatgpt.com
内閣府 防災情報のページ https://www.bousai.go.jp/kyoiku/kyokun/usuzan/database/01/01/02/uzn010102_07.htm?utm_source=chatgpt.com
ウェザーニュース 「北海道の『昭和新山』で落石の報道 風化による自然崩落か」https://weathernews.jp/s/topics/202309/260215/amp.html?utm_source=chatgpt.com


