東京都江東区・門前仲町の賑やかな大通りから脇の路地に少し足を踏み入れると、昭和初期のレトロな佇まいを残す2階建ての鉄筋コンクリート建築が姿を現す。深川東京モダン館である。6つの丸窓が印象的なこの建物は、できるだけシンプルで単純な形を追求した1930年代の建築スタイル「モダニズム」を今に伝える。階段のモザイクタイルは32年の竣工当時のものが残されている。一見すると落ち着いたモダンなギャラリーのようだが、関東大震災からの復興の記憶を伝える貴重な建造物である。
関東大震災の復興事業として生まれた「深川食堂」
深川東京モダン館のルーツは、32年に建設された「東京市深川食堂」に遡る。当時の東京市は安くて栄養のある食事を低所得者層に提供するため、市設食堂を20年から開設していた。背景には、18年に米騒動が起こるなど庶民を苦しめた物価高騰がある。23年に関東大震災が発生すると、復興事業として市設食堂が相次いで建設された。深川食堂は田町食堂とともに設置された最後の市設食堂で、肉うどんやカレーライスなどの料理を安く提供し、市民の食事を支えた。
しかし、復興が一段落すると、民間の大衆食堂が増えたこともあって利用者が減少し、36年には閉鎖されることになった。建物は満足な食事がとれない欠食児童などのための深川栄養食配給所として38年から利用された。45年には空襲による火災が起きたが焼失を免れ、戦後は職業安定所や福祉施設などとして利用され続けた。
2006年に福祉施設が開所した際に、建物の解体が議論されるも、残っている震災復興建築物は希少であったため、08年、国登録有形文化財に指定され、翌年には江東区の観光・文化を発信する拠点、深川東京モダン館として生まれ変わった。現在、1階では江東区の観光情報を展示。2階は落語や書道教室などのための貸しスペースとして地域住民に利用されている。開館日には、周辺のまちあるきツアーも開催されている。
関東大震災の復興事業として誕生し、人々の食と生活を支えた東京市深川食堂。その記憶を受け継ぐ深川東京モダン館は、今日でも地域とひとをつなぐ交流の場として親しまれている。「建てられた当時の思いや、その時代の空気感を感じていただければ嬉しい」。
そう話すスタッフの温かな言葉に導かれながら、下町情緒あふれる深川の歴史をめぐる散策をここから始めてみてはいかがだろうか。
参考情報:
向山伸子「市民の食生活を支えた市設食堂」
https://www.city.koto.lg.jp/103020/bunkasports/bunka/shuppanbutsu/documents/sitabun247.pdf




