【特集】日常の音に異常な嫌悪感 身近な障害「ミソフォニア」に理解を(前編)

バッグや靴、財布など、あらゆる製品で使われているマジックテープ。筆者はその着脱音が大嫌いです。聞くだけで耳が痛くなるばかりでなく、マジックテープを見ただけで、そして酷いときはその言葉を聞いただけで、似たような苦しみを覚えるのです。

この症状について調べていくと、特定の音に対し、嫌悪感や怒りを覚える「ミソフォニア(音嫌悪症)」という障害にたどり着きました。まだ医学的にはっきりとした定義はなく、ミソフォニアとして診断を受けた患者も少ないようですが、同様の症状を抱える人は世界中にいるとされています。

ミソフォニアとは一体何なのか。そして、私の症状はミソフォニアなのか。気になった筆者は、ミソフォニアについて調べると共に、「日本ミソフォニア協会」に所属する二人の現役大学生に実際に話を伺ってきました。

ミソフォニア患者の声、そして、社会がどのように向き合っていけばいいのか、考えたことを二部構成で報告します。前半では、主にミソフォニアの説明を、後編ではミソフォニアの当事者の方の声を中心に取り上げます。

 

■ミソフォニアについて

まず、ミソフォニアとは、「特定の音に対して逃避願望や攻撃的衝動の伴う激しい否定的な反応(激しい怒りや嫌悪感など)を示す障害」を指します。また、その音だけではなく、その原因となるような特定の「視覚的刺激」に対しても同様の症状が出る場合もあります。

「嫌な音なんて誰にでもある。少しくらい我慢しろ」と思う方もいるかもしれませんが、その不快さが我慢できるレベルをはるかに超えているからこそ、障害の一つとして名前がついているのです。実際に、殺意にも似た強い怒りを覚える人もあるようです。

ここで言う「特定の音」は人によって異なりますが、ほとんどの音に共通しているのは、「日常的によく聞く音、かつ、人から出る音」ということです。例を挙げると、「鼻をすする音」、「咀嚼音」など少なからぬ人が不快に感じそうな音から、「くしゃみ」「歯磨きの音」「タイピング音」などまでさまざまです。このように、不快な音「トリガー音)は人それぞれなうえ、多岐にわたることが分かります。

日本ミソフォニア協会のホームページには、 50を超えるトリガー音の例が紹介されています。

 

■聴覚過敏との違い

似た症状として、発達障害のある人に多い「聴覚過敏」があり、混同されることがあるようです。しかし、両者には明確な違いがあります。

聴覚過敏は、特定の高い周波数の音全てに反応するほか、突発的で大きな音に反応する障害です。また、その音を聞くと動けなくなるなど、生活に目に見えた影響が出ることもあるようです。そのため、日常的にイヤーマフなどで耳を守っている聴覚過敏患者も多く、その症状が見た目や振る舞いからもわかりやすいことが特徴に挙げられます。

一方ミソフォニアは、周波数や音の大きさにはそれほど影響を受けず、その症状は特定のトリガー音によって引き起こされます。また、症状は不快感など内面的なものなので、怒りや嫌悪感といった感情も、衝動であっても具体的な行動につながるものとはいえません。その衝動が抑えきれずに怒ってしまったりすることはあるようですが、基本的には外からは症状が見えません。この点が、当事者の苦しみを気づきにくくさせています。

これらの点から考えると、「耳の奥に痛みを感じる症状であり、怒りや嫌悪は感じない」筆者の症状は、どちらかと言えば聴覚過敏に近いもののようです。とはいえ、視覚的刺激による症状などの共通点もあるので、機会があれば専門医に診てもらおうと考えています。

 

■治療法や対処法について

ミソフォニアの原因についてはっきりとしたことは分かっておらず、治療法も確立されていません。よって、病院でも対処がわかれるようで、「気にしすぎ」とまともに取り合ってくれないところもあれば、診断書を出してくれる場合もあります。その際は、ミソフォニアという病名での診断書を貰うことは難しいので、聴覚過敏やそれに類する病気として診断が下されるようです。

なので、トリガー音を聞いたときには、イヤホンや耳栓で耳を塞いだり、その場から離れたりする対症療法しかありません。しかし、学校の授業中や職場での仕事中など、耳を塞ぐことができない時もあり、そういった際の対応は、診断書の有無や周囲の理解度に左右されます。

 

ミソフォニアは医学的な定義が不明確である上に、目に見える症状も無いため、非常に理解が得られにくいのが現状です。この障害にどのように向き合っていけばいいのか、そして、ミソフォニア患者が望んでいることは何なのか。当事者の声を交え、後編で考えます。

 

 

参考資料:

日本ミソフォニア協会 (misophonia.support)

日本人はいつから「雑音恐怖症」になったのか | 「コミュ力」は鍛えられる! | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース (toyokeizai.net)

そしゃく、タイピング音などに苦痛「音嫌悪(ミソフォニア)」 当事者が語る社会の壁 – 弁護士ドットコム (bengo4.com)

他人が出す特定の音に強い怒り・不安を感じる病気「ミソフォニア」について描かれた漫画がためになる – Togetter

音に苦しむ「聴覚過敏」知ってほしい | 未来スイッチ!課題解決で暮らしやすい社会へ|NHKニュース