前回から大分日にちが空いてしまい申し訳ありませんでした。
今回扱うのは、アジアから遠く離れてヨーロッパのブルガリアです。皆さんはブルガリアという国について何をご存知でしょうか? 多くの人がブルガリアヨーグルトを思い浮かべるかもしれません。日本で皆さんが食べたことのあるブルガリアヨーグルトも、ブルガリアから政府公認の乳酸菌を輸入しており、政府にも許可されている、正真正銘本物のブルガリアヨーグルトなのです。小話はこの程度にしておいて本題に移りましょう。
ブルガリアの国土面積は北海道よりも少し大きい程度。人口は約704万人です。今回は首都ソフィアのソフィア大学の大学生であるヴィクター・ガザロフ君からブルガリアの就活事情を伺いました。最初に、ブルガリアの現状についてですが、大学および職業専門学校で学ぶ第三次教育を受ける人の割合が21.7%(2011年)でした。日本における大学、短大、専門学校の進学率は70.4%(年)ですので、日本の3分の1以下の進学率になります。また15歳から24歳の就職率は22.1%(2012年)となっています。失業率の面では、2013年1月時点でブルガリアは11%。他の国と比べてみるとどうでしょうか? ドイツが5.1%、スペインが26.7%とEU加盟国間で開きがある中、ブルガリアは中位に位置します
基本的な情報を踏まえた上でヴィクター君にブルガリアの就活事情をより詳しく聞いてみました。まず、就職活動の仕組みですが、前回まで紹介してきたアジアとはまた違ったやり方でした。もちろん、履歴書や面接はある一方で、グループディスカッションが行われるケースはほとんどないようです。また、面接の後に採用が決まったとしても、その後2~3ヶ月の試用期間を経て正式に採用されます。そのため、もし試用期間中に評価されない場合は、期間終了後に解雇されてしまうケースもあります。彼によれば、「この手法が若者だけでなく他の世代にとっても不安の種になっているのは否定できない」とのことです。業種について伺ったところ、ブルガリアには主要産業と呼べるものはないが、最近ではITの専門家をはじめ、法律、経済、経営の専門家の需要が増えてきているようです。
次に、ブルガリアが抱える問題について伺いました。まず彼は大学が抱える問題として「大学のファイナンス」を挙げました。公立、私立に関わらず、大学の財政は在籍している生徒数に大きく左右されます。また、企業にとっては、長期にわたる教育に投資するということがほとんどないため、企業が大学の財政に与える影響というのは非常に少ないです。そのため、大学が抱える大量の学生と企業の需要とは大きな隔たりがあります。もっとも、これはブルガリアに限った話ではなく、「大学全入時代」とも揶揄される今の日本にも当てはまることかもしれません。
また、日本はもう少し長いかもしれませんが、一定数の人は1年または2年以内に職をやめてしまいます。問題はその後です。次に移る職場の給与は良くて前職と同じ程度、もしくはそれより低い程度です。しかし、これらの問題についてブルガリア、その他外資系企業が深く注意を払うことは少ないです。経済情勢と個々人の「仕事へのモチベーションの低下」が相まって、雇用情勢の負のスパイラルをつくりだしてしまっています。そして、この課題をどう解決していくかというのが、日本も含め、今後の課題かもしれません。
インタビューの最後にヴィクター君に日本の就職活動の印象を聞いてみました。韓国の友人の時とは違い、一言「キャリアチェンジが大変そうだ」と答えてくれました。確かに、多くの人が終身雇用だった高度成長期の時代からしたら、キャリアの方向を変えるのは大変だったはずです。しかし、今の時代はどうでしょうか? キャリアチェンジをしたくなくても、せざるを得ない時代に突入しているのではないでしょうか? 2012年7月に人事コンサルティング企業の「レジェンダ・コーポレーション」が若手社会人を対象に行った調査では、84%もの人が「終身雇用に賛成」と回答しました。若者の方から終身雇用を望む声が多く上がっている中、ヴィクター君が言ったような「キャリアチェンジ」を望む人は一体どのくらいいるのでしょうか? 締めくくりに彼はこう言いました。「過去数十年の日本の経済成長にこのような終身雇用的な態度は大きな貢献を果たしてきたと思う。だけど、それが日本の競争力を削ぎ、停滞の元になってきているのだろうね。一方で、ブルガリアでは日本と比べると容易に従業員の解雇が可能だ。経営の面からは雇用の流動化は良いのかもしれないが、社会全体を見渡すと一概にイエスとは言えない。互いに学ぶべきことは多いと思う。ブルガリアも日本の大学生も卒業して職を得ても、それが必ずしも自分の思い望んでいた職とは限らない。そういった意味では、これからの時代はどこの国の若者も生き残れるように能力を磨き続けなければならないだろうね。タフな時代だけど、頑張らないとね」
学生編集長田口がこの記事を執筆するのは今回で最後になります。短い連載でしたが、ご愛読して下さった皆さん、ありがとうございます。次回の連載をお楽しみに!
【インタビューイー:ヴィクター・ガザロフ(ソフィア大学)】