会社と学生 両者のせめぎあい

就職情報サービス大手のリクルートキャリアが、就職活動にいそしむ学生がどれだけの確率で内定を辞退するのかの予測を企業に提供していた問題。同社は企業38社に提供していたことが明らかになっていましたが、そのうち21社が読売新聞の調べで明らかになりました。生保や自動車、金融機関などその業態は多岐にわたります。

選考中の企業を辞退する確率を学生のデータから算出し提供していたことは学生に事前に告知していないことが就活生の不信感を生みました。同時に、もし辞退する確率が高いと勝手に判断され、それのせいで選考に影響、最悪の場合不合格になってしまったら、と考えると、すべての就活生にとって他人事ではありません。

ここにきて、内定辞退の確率に関する情報を入手していた企業が自主的に公表するケースが増えています。例えば技術者派遣事業の大手「ワールドインテック」は選考中や内定を出した学生およそ2,000人に関するデータを入手していましたといいます。また、外食大手のコロワイドもデータを手に入れていたことを明らかにしています。

こうした情報が重宝される要因は、「売り手市場」と呼ばれる学生優位な新卒採用市場が影響しています。採用を計画している人数に対して実際に採用できた人数の割合を示す「採用充足率(マイナビ調査)」は昨年の調査では84%。上場企業は9割を超える一方、非上場の企業は7割台にとどまるなど、その割合は20ポイントほど差があります。非上場の企業は100人採用したくても70人程度しか採用できないという非常に厳しい状況になっています。

今回の一連の問題では、いわば勝手に辞退率を算出していたリクルートに批判が集まる一方、その情報を購入していた企業にも批判が向いています。しかし、企業だってその名の通り営利を目的に存在する組織です。これから新しい事業を開拓したい会社や世界に目を向けたい会社、はたまた既存の事業を遂行したい会社にとって実際に手足となって働いてくれる従業員がいなければ話になりません。ミクロ経済学で言う企業の「利潤最大化行動」を黙々と行っているだけなのです。なるべく採用計画に届くように採用したいというごく自然な目的のために使えるものを使っただけではないでしょうか。

学生だって人によっては一生そこで働く可能性のある企業を一生懸命考え抜いて就活に挑みます。心の底から行きたい企業だけを受ける人は少なく、本命を前にして面接の練習がてら結果として内定をいただく人や、万が一1社も内定をもらえないようなことがないようにいわば安全圏の企業を「保険」として押える人も。そういう行動は本来企業にとっては喜ばしいものではありません。企業も学生も、それぞれがそれぞれの目的達成のためにあの手この手を駆使しそれがせめぎあっているのです。

そもそもの問題は、リクルートが学生に無断で数字を算出していた、ただこれだけです。膨大な情報を管理することができる企業ゆえに、利用者の一部分である学生の立場になって再発防止に努めてもらいたいものです。

参考記事:

20日付 読売新聞朝刊14 8面(経済)「辞退率利用 21社判明」

マイナビニュース https://news.mynavi.jp/article/20181108-720756/