オタクに国境はない

 

昨日の「あらたにす」では韓国国内で繰り広げられている日本製品不買運動について取り上げました。今年3月から韓国で留学生活をしている筆者もここ数週間、日韓関係が悪化しているのをテレビやニュースを見て感じます。

特に衝撃的だったのは釜山市が日本との交流事業を「全面見直し」すると表明したことです。

釜山聯合ニュースによると、9月に予定された「釜山-福岡フォーラム」が中止になる可能性も出てきたといいます。

また本日の朝日新聞朝刊で掲載された「日韓対立、観光・消費に影 LCC運休/宿泊キャンセル相次ぐ」も胸の痛む記事でした。博多-釜山を結ぶ高速船「ビートル」で、7月に入り韓国人の新規予約が例年より減少したのです。

自分に一体何ができるのだろうかと日々自問自答しては解決の見えない道をさまよっているのですが、一方で楽観的に感じている自分がいることも事実です。本日は筆者がなぜ楽観的に感じているのか、そして日本ではあまり知られていない韓国のポップカルチャーについて紹介します。

冒頭の通り筆者は4か月前から韓国で生活を営んでいるのですが、渡韓するのは初めてではありません。それ以前に3度ソウルや釜山を訪れています。隣国に興味を持ったのは、小学6年生の頃。当時日本は韓流ブームで、BSをつければ「チャングムの誓い」「華麗なる遺産」「冬のソナタ」などの韓国ドラマ、そして「M countdown」など音楽番組が放送されていました。祖母が家事の合間に見ていたのを隣で眺めていたのが始まりです。

小学生だった私は、音楽番組で気になった曲があれば手元に用意した紙にグループ名と曲名を必死に書き写していました。手間がかかりましたけれど、今となってみては宝探しをしていたようでとてもいい思い出です。

それからかれこれ10年。いまだに韓国を追い続けています。「オタクは沼」とはよく言ったものです。振り返ってみると、この期間で韓国のポップカルチャーには大きな変化があったように思います。というのも、「日本離れ」を始めたように見えるのです。

こういうと否定的に聞こえますが親元から雛が巣立つのを想像して下さい。餌の獲り方、飛び方など生きていくうえで大事なことを学び、独り立ちしていくのです。

具体例を挙げていきましょう。あえてこの時期だからこそ、今回紹介した作品の一つひとつを見て、読んでほしいものです。

まず韓流ブームの流れを作ったドラマ。筆者は中でも「私のIDはカンナム美人」と「ただ愛する仲」に注目しています。前者は整形大国とも呼ばれる韓国の整形事情について正面から向き合った作品です。整形手術後、大学デビューをした一人の少女が自分の外見について考える姿は、日本では作れない内容で考えさせられました。後者は建物崩壊事故に巻き込まれた男女二人の物語です。このドラマは「恋愛」というジャンルに収められていますが、それだけでなく崩壊事故の被害者としてどのように生きていくかを描いています。

 

▲「私のIDはカンナム美人」のポスター画像。ドラマに出演しているアイドルASTROメンバーのチャ・ウヌがかっこいい。(HPより引用)

 

次にアニメ。日本ではあまり見られていませんが、ここ数年の技術向上には驚きます。「연애하루전 A day before us/恋に落ちる瞬間」はストーリー自体は平凡なのですが、映像がきれいでこれからに期待できます。

 

▲「연애하루전 A day before us/恋に落ちる瞬間」のポスター画像(HPより引用)

 

最後に出版や漫画。筆者がこれから最も注目したい分野です。つい先日、韓国文学ファンを賑わせていたのが、「韓国・フェミニズム・日本」を特集した河出書房新社の「文藝」秋季号で、創刊以来68年ぶりに3刷が決まったことです。韓国だけを特集したわけではないものの、少しは増刷の手助けになったでしょう。今の話は小説についてですが、漫画も熱い。特に「アイドル」に焦点を当てたものは脱帽です。日本の漫画も日々欠かさず読む筆者なのですが、この分野は韓国だなと思います。華やかしい世界だけでなく、ファンによる嫌がらせ行為、労働環境にまで焦点を当てているからです。

韓国のポップカルチャーは日本と似たり寄ったりのところがありました。数年前にさかのぼれば、日本の漫画をドラマ化したものが少なくありません。それが今では独り立ちし、逆に日本に影響をもたらしています。

韓国Mnetで放送された公開オーディション番組・プロデュースX101で国を超えて日韓の人々たちが手を取り合って「推し」の練習生を応援したこと。声優の梶裕貴さんが結婚した時、韓国のSNS上で悲鳴の声が上がったこと。お互いの良いところを取り入れ、高めあう。ファンの間では感情を共にする。日韓のポップカルチャーは今そういった仲になっているように思います。

政治が不安定でも、文化面では絶えず交流したいものです。

《追記》

この記事を書き終えた後、ある記事を読みました。

来月予定されていた「朝鮮通信使の復元船」の対馬への初航海が中止になったとの記事です。

対馬出身として、とても楽しみにしていたのでがっかりしています。この怒りを誰に向けていいのかわかりません。私たち民間人は外交面で何があろうと絶えず交流していかなければならないと思います。しかし、その交流さえ断たれてしまってはどうにもなりません。

初航海の中止を決定したのは韓国側ですが、一方に責任を押し付けるのは間違っていると思います。日本の輸出規制は正しかったのでしょうか。誰かを悲しませてまでやるべき方法だったのでしょうか。

 

江戸時代対馬藩には雨森芳洲という儒者がいました。朝鮮通信使の際、通信使の江戸行に随行していた人物です。彼は藩主に上申した対朝鮮外交の指針書『交隣提醒(こうりんていせい)』の中で以下のようなことを述べています。

 

朝鮮交接の儀は、第一に人情・事勢を知り候事、肝要にて候
互いに欺かず争わず、真実を以て交わり候を、誠信とは申し候

 

国によって風儀も嗜好も異なるので、日本側のモノサシだけで接しては必ず不都合が生じる。相手国の歴史・言葉・習慣・人情や作法などをよく理解し尊重して「誠信の交わり(まごごろの外交)」をおこなうべきである」と主張したものです。

日韓両国はそれぞれ、誠信の交わりを出来ているのでしょうか。

もう一度考え直してほしいものです。

 

参考記事:

7月25日付朝日新聞朝刊6面「日韓対立、観光・消費に影 LCC運休/宿泊キャンセル相次ぐ」

参考資料:

河出書房新社 文藝 2019年秋季号

http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309979779/

「文藝」2度目の緊急増刷決定! 創刊以来86年ぶりの3刷》2刷増刷分は予約でほぼ完売! 「韓国・フェミニズム・日本」を特集した文芸誌「文藝」2019年秋季号、1933年創刊号以来の3刷決定。

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000250.000012754.html

 

わたしたちの長浜 雨森芳洲

https://www.city.nagahama.lg.jp/section/kyouken/children/category_02/03_kinsei/hoshu/index.html

 

7月25日ソウル聯合ニュース「朝鮮通信使の復元船 対馬への初航海が中止に」

https://web.smartnews.com/articles/ggb3Y5m1pNn