AO入試の拡大は「学歴が金で買える社会」への第一歩

 近年、国主導の「脱・知識偏重型」の大学入試改革の一環として、国立大学協会が「推薦入試、AO入試などの割合を、21年度までに入学定員の30%に引き上げる」との方針を出した。私立大学もAO入試を拡大する傾向にあり、官民一体となって「人物重視型」の大学入試改革が進められている。

AO入試では、受験者に学力試験を課さず、大学の入学管理部門が定めた選考基準(面接や小論文)に基づいて、合否の判定をする。つまり、受験者の個性や経歴を尊重する「人物重視」の入試であり、一見すると、主体性や多様性、協調性が求められるようになった現代社会にふさわしい仕組みだ。

どれだけ努力しても、1点でも足りなかったら不合格という「非人間的な」一般入試に比べ、AO入試は「人間性」に富んだ理想的な制度なのかもしれない。しかし、その拡大が、「学歴が金で買える社会」をさらに深刻なものにする危険性を孕んでいることに多くの人は気づいていない。

AO入試を実施している大学、短大での評価方法は、面接(51%)、調査書(48%)、小論文(28%)、活動報告書(26%)、プレゼンテーション(24%)、口頭試問(17%)、英語4技能試験結果の利用(14%)の順だ。これらのうち、面接や小論文、プレゼンテーション、口頭試問は一人で試験対策をするのが難しい。その為、AO入試に特化した予備校に通うことのできる生徒が、圧倒的に有利になることは容易に想像できる。

さらに、そうした予備校では徹底した面接やプレゼンテーション対策が求められ、一般的な予備校に比べ一人の生徒に費やす時間はかなり多くなり、学費はかなり高くなる恐れがある。それだけのお金のない学生は、圧倒的に不利になり、「学歴が金で買える社会」になっていく恐れがあるわけだ。さらに、専門の予備校がない地方と都市部とでは、生徒の間に大きな格差を生み出すことは避けられない。

調査書や活動報告書はどうか。これらも家庭が裕福であるかないが重要となってくる。大学が理想とする活動報告とは、恐らく学外ボランティアや留学の経験だろう。貧しく、教育に多くの金をかけられない家庭で育った子供にとっては縁遠いものだ。「学外ボランティアは無料だ」との反論が出そうだが、高校生で学外ボランティアなどの活動をする生徒は、暮らしに余裕のある家庭の出身であることが多い。貧しい家庭の子供がアルバイトなどよりもボランティアを優先するとは考えにくい。

私も含めて公営住宅で暮らしていた友人で自主的なボランティア活動をした経験のある者は皆無だったように思う。

ここまでAO入試を批判してきたが、決して全廃すべきだとは思っていない。むしろ、一般入試にない良さがあるのだから、一定数はあってもいい。しかし、AO入試とは金持ちの子供が圧倒的に有利になりがちな仕組みであり、それを大幅に拡大することには違和感を覚える。

2021年度の大学入試からAO入試は「総合型選抜」と名前を変える。おそらく、多様性や人物重視を錦の御旗に大学に浸透していくことだろう。

多様性や人物重視という風潮の中から生まれてきたが、その拡大は、皮肉にも、大学が裕福な家庭の子女ばかりという単一化を推し進めることに国は早く気付くべきではないか。

参考記事

4日付朝日新聞朝刊(13版)23面「変わる大学入試 広がるAO 進む対策」