私の故郷、神田 祭や文化を守りたい

どこからともなく聞こえる笛や太鼓の囃子。すがすがしい風になびく酒と汗の混じったにおい。神輿を担ぐ威勢のいい掛け声。ぶつかりあう人々の熱気。揺れ動く神輿の鈴が響き渡る。

12日、神輿を担いで大通りを歩く人々=東京都千代田区(筆者撮影)

 

12日、東京で行われた神田祭の様子です。大小200基を超える神輿が練り歩きながら神田明神(東京都千代田区)を目指す「神輿宮入(みこしみやいり)」が行われました。次々と神輿が到着する境内には、担ぎ手や見物の人が賑わい、その活気に圧倒されるほど壮大な景色が広がっていました。

神田祭は、江戸三大祭の一つに数えられています。京都の祇園祭、大阪の天神祭とともに日本三大祭とも言われ、2年に1度しか開催されません。

筆者は、氏子町会の出身です。地元の良さを改めて発見し、地域の人々と交流する大切な機会となっていると感じています。古くからの居住者が高齢化し、新しくマンションなどの住民が増えるなかで、祭は人々をつなぐ重要な役割を担っています。神田で生まれ育ったお年寄りが元気を取り戻し、ここで新たに育つ子供たちがたくましく神輿を担ぐ。そんな姿を見て、地元や人々を愛おしく思い、温かい気持ちになります。

このような祭りや伝統芸能は、各地で地域の文化として大切に受け継がれてきました。ですが、近年は担い手の高齢化や後継者不足により継承が困難になりつつあります。都道府県や市町村などの自治体が保護を目的として指定する「無形民俗文化財」の中にも、維持できずに指定解除される例が目立ってきました。

朝日新聞の調査によれば、文化財保護体制が整った75年以降に無形民俗文化財の県指定などを解除した例は、千葉、愛知、大分県の計9件にのぼります。うち1件は復活していますが、多くの場合は参加者不足により復活の展望が開けない状態にあります。指定解除に至らずとも休止が10年以上に及ぶものは、少なくとも14件を超えます。

文化は、その土地と暮らす人々を写す鏡です。消滅は、人口減少や地域の弱体化の表れでもあります。長い年月を経て先祖たちが大切に受け継いできたものがなくなってしまうのはなんだか寂しくありませんか。たとえ過疎は止められなくとも、地域の知恵と力を結集させて守り抜いていく道を模索する必要がありそうです。

 

参考記事:

17日付 朝日新聞朝刊(東京13版)27面(文化)「無形民俗文化財 返上するしか」

13日付 朝日新聞デジタル「神田、『江戸っ子』熱気 神輿宮入」